DVD:市民ケーン(監督:オーソン・ウェルズ)

市民ケーン [DVD] FRT-006

市民ケーン [DVD] FRT-006

荒廃した壮大な邸宅の内で、片手に雪景色の一軒家のあるガラス玉を握り"バラのつぼみという最後の言葉を残し新聞王ケーンは死んだ。死後のケーンに与えられた賛否の声は数多かったが、ニュース記者トムスンは"バラのつぼみの中にケーンの真の人間性を解く鍵があると信じ彼の生涯に関係のある人々に会うことになった。ケーンが幼少の頃、宿泊代のかたにとった金鉱の権利書から母親が思わぬ金持ちになった。そのために彼は財産の管理と教育のため、片田舎の両親の愛の中から無理矢理にニューヨークに押し出された。やがて青年になったケーンはかねてから興味を持っていた新聞経営にのりだした。先ず破産寸前のインクワイアラー紙を買いとり友人の劇評家リーランドとバーンステインの協力を得て完全に立ち直らせた。さらに斬新で強引な経営方針と暴露と煽動の編集方針で遂にニューヨーク一の新聞に育てあげた。しかし、絶大な権力を手にするのとは裏腹にケーンは孤独な人生を歩みはじめるのだった。

1941年に公開された白黒映画である。久しぶりに白黒を観たなぁ。学生の頃にいわゆる古き良きベルエポックにハマり、『ローマの休日』から『第三の男』、『誰がために鐘は鳴る』などあのへんの名画をレンタルしまくっていたことを思い出した。あと何を観たっけなぁ‥‥としばし感慨に耽る。
が、コレは観たことがなかった。制作・監督・脚本・主演のオーソン・ウェルズは、『火星人襲来』のラジオドラマ番組をプロデュースしたひとでもある。火星人の襲来をまるで本当の臨時ニュースのような脚本で放送したところ、視聴者がマジだと勘違いしてパニックを起こしたという、あの伝説の番組だ。ちなみに火星人は原作も同じウェルズだがH.G.ウェルズって別人。
ところでこの映画は当時としては画期的な手法で撮影されているのがスゴイらしく、wikiによると、

ディープフォーカス、ローキー照明、豊かな質感、奇抜な構図、前景と後景との極端な対比、逆光照明、天井付きの屋内セット、側面からの照明、極端なアングル、極端なクローズアップと並列された叙事的なロングショット、めまいを起こしそうなクレーンショット、その他豊富な特殊効果など、これらは特に目新しいものではない。しかし映画批評家のジェームズ・ネアモアの言葉を借りて言えば「7段重ねのケーキの様な豪華さ」で、これらの既存の技術を自在に使いこなした者は誰もいなかった。

のだそうな。技法的なことはよく判らないが、観れば確かに古い映画にありがちな冗長さが少なく、感覚的に判りやすい画面構成で、途中でダレることなくストーリーにぐいぐい引っ張り込まれる。ラストまで辿り着けば『ああ、そういうことか‥‥』と息をつくのだけど、そこに至るまでがスリリングであった。解明されるのは、バラのつぼみという言葉の意味だけでなく、意志堅固なケーンが生前は他人に見せなかった内面でもある。しかし映画の観客には映像で明示されるものの、嗅ぎまわっていた当の登場人物たちはそれがなんなのか結局判らないままで終わる。死ぬまで虚勢を張り切った男の柔らかな部分は、やはり衆人には明らかにされちゃいけないものだよな。武士の情けだ。