カメラマンの訃報

鴨ちゃんが腎臓癌で亡くなった。享年四十二歳だった。


カメラマンの死というと、星野さんの訃報を聞いたときの事を思い出す。1996年、今から十一年前である。
私は車の運転をしながら、ラジオから流れるニュースに耳をそばだてていた。録音だろう、事故当時同じパーティにいた人のインタビューも流れたと思う。

テントで野営していたら、うわぁという声が聞こえて‥‥

ヒグマに襲われたらしいと後で判った‥‥

その裏返った声の話しぶりで緊張感が伝わってきた。
天気が良かった。バイパスで車を走らせながら、遠く離れたアラスカをおもったことを覚えている。星野さんはこうして死んだのかと、変な話だが腑に落ちた。できすぎですらあった。
もちろん事故は痛ましいことだし、人の死は不幸なことだ。本人だって死にたくはなかったろうし、ああいう人だからグリズリーに襲われて本望だなんていうのは世迷言である。
だが動物に死は避けられないものだ。いつか死ぬとしたら、こういう死に方だろうというものがあるとすれば、まさにそれだと不謹慎にも思ったのである。
アラスカの自然に強い親和性を抱いていたであろう人だ。ヒエラルキーに丸ごと呑み込まれたのだとしたら、自然とはそういうものかもしれないと諦めるしかない気がした。


その次が戦場カメラマンの橋田さんだった。
彼のことはサイバラ鴨ちゃんの本でなんとなく覚えていた。ニュースが流れたとき、名前を聞いて「あれ、ひょっとして鴨ちゃんの師匠かも」と思ったのが当たっていた。サイバラのマンガに出てくる、柔和そうで悪魔のような人である。
戦場に倒れたこの人も、それまでの人生を写したような亡くなりかただったように思える。


早すぎる病死というのもまた、鴨ちゃんらしくて泣けてくる。
サイバラがいる人生って、どんなだっただろう。
その人らしいというのは、たまに痛い。