映画:マイ・ブラザー(監督:ジム・シェリダン)

2004年のデンマーク映画ある愛の風景』のリメイクなんだそうな。

海兵隊員のサムは、よき夫でよき父。厄介者の弟トミーが出所するのと入れ替わりに、妻のグレースと二人の娘を残し、アフガニスタンに出征する。しばらくしてグレースのもとにサムの訃報が届く。悲しみに沈むグレースたちを慰めたのはトミーだった。彼は兄嫁や姪たちを支える中で次第に更生していくが、ある日、死んだはずのサムが別人のようになって生還する……。

兵士にも家族がいて、きれいな奥さんと可愛い小さな娘達と平和で平凡なあったかい家庭生活がある。一方で、戦場というのはいつでもバリバリと耳を聾せんばかりの音が鳴り埃っぽく猛々しい生命をやりとりする緊張に満ちた場所である。嘘のようなギャップだが、兵士にとってはその往復が当たり前の人生なのだな。
このごろ湾岸戦争がらみの映画を立て続けに観ているが、思えば『ハートロッカー』は戦場に憑かれて家族のいる日常に馴染めなくなった男の話だったし、『グリーン・ゾーン』は家族は描かれず戦場での出来事に終始していた。戦場の厳しさはこれでもかと見せつけられたが、それを日常の延長線上としてとらえるのは、私の平和ボケした現代日本人的感覚ではピンときていなかったのだ。
父や兄が、もしくは自分が戦場へ行っていていつ死ぬか判らない状況であるということ。頭では判っていても実感し難い。それを実にストレートに突きつけられて、素直に『兵隊さんって大変だなぁ』とアホの子のように思ったのだった。いやだってね、漢は外に出れば7人の敵がいるなんていうが、外で働くということなら自分自身もそれなりに体験して目の当たりにしているから理解は出来る。しかし目の前の人を殺さなければ自分が殺されるだなんて、実感したことはない。しかもそれを実行するのだ。当たり前といわれれば返す言葉もないが、戦争であるということは、単純明快にそういうことなのだな。
そしてそんな場所からやっとの思いで帰ってきて、聞かされた子どものたわいないボケ。これっぽっちも面白く感じないわけだ。そりゃギンギンに目を血走らせてるときに、ケツの栓がぬけたようなゆるいナンセンスにチューニングを合わせるなんて、誰にでも出来る芸当じゃない。無理もない。
舞台はアメリカのちょっと田舎のほうらしく、雪の降る静かな情景が抉れた傷に沁みるようだった。映画では父も元軍人で、年代からいっておそらくベトナム帰還兵だったのか。軍隊を持ち戦争行為を行っている国では、家族が軍人であるということはさほど珍しくもないのだろうな。