読了:薪の結婚(ジョナサン・キャロル)

薪の結婚 (創元推理文庫)

薪の結婚 (創元推理文庫)

思い出に値する出来事があるたびに木片を拾う。人生が終わりを迎えるとき、それを薪にして火を熾す――“薪の結婚”。教えてくれたのは最愛の人。彼と住むこの館ですべては起きた。死亡した恋人の来訪、いるはずのない子どもの笑い声、知り得なかったわたしの“罪”。罪と罰、そして贖いの物語は、あらゆる想像を凌駕する結末を迎える。鬼才キャロルにのみ許された超絶技巧!
裏表紙より

人生の節目に木片を拾う。大変にロマンチックである。ニューヨークでビジネスに成功し、男たちの間を渡り歩く自由な生活を楽しんでいたミランダ。冒頭で眩しく輝いていた高校時代の同窓会へ出席することで、取り返しのつかない甘やかな過去が綴られる。
後半から次第に怪しげな雰囲気になっていくのだが、終始最愛の人への想いがその中心にあるためか、恐怖やおどろおどろしさは薄い。しかし甘い一方かというとそうでもなく、謎めいた展開の中に人生の苦さも織り込まれ、その配合の絶妙さに「そうよねぇ」と共感してしまうのであった。夢のような、ある意味理想の恋物語でもあるな。
自分の無意識のエゴが周りに及ぼす影響ということでは、アガサ・クリスティの『春にして君を離れ』という名作もあるけれど、あちらでは乾いた冷徹さに打ちのめされるのに対し、こちらは最後まで希望を残してくれる。ホラーだけれども、なんとなく女性的な優しさに満ちた物語である。