映画:蘇る玉虫厨子

蘇る玉虫厨子 公式サイト
厨子というのは、中に仏像とか位牌とか経典なんかを入れる入れ物系仏具のこと。仏壇なんかも厨子のひとつだ。
玉虫厨子というのはそのものズバリ、玉虫の羽を装飾に用いた厨子である。形は寺のミニチュアのような仏堂形。ちなみにオリジナルは飛鳥時代の作で、法隆寺に残っている国宝。聖徳太子の没後、くらつくりのトリが作ったといわれている。
この千五百年前の工芸品を、現代の名工を集めて復刻する模様を追ったドキュメンタリーである。プロジェクトのパトロンである中田金太氏と設計施工担当の中田秋夫氏のもとに集まったのは宮大工・八野さん、蒔絵師・立野さん、彫師・山田さん、塗師・坂本さんの四名である。
この厨子、玉虫の羽は飾り金具の下に貼り込まれていて、本体自体は漆塗りである。私も勘違いというか若干期待していたんだが、残念ながら全面が玉虫色でキンキンラキラキなわけではない。
しかし凄いなーと思ったのが、古の厨子の金具の奥に当時の玉虫の羽が一枚残っていること。時を経て黒ずんだ生地と金具の間に、そこだけ時間が止まっているかのように千五百年前の輝きが確かに挟まっている。虫の羽って時空を越えてもこんなにキレイにもつものなんだ。
ここではオリジナルを出来るだけ忠実に模写した一台と、現代の技術を凝らした改変平成版の二通り作っている。
ところで蒔絵とは漆で模様を描き、乾かないうちに金銀や色粉などを蒔いて付着させたもののことである。技法が確立したのは奈良時代のことなので、まだ技術がなかった飛鳥時代にできたこの厨子に描かれた絵は、朱塗りや密陀絵*1で表されている。
つまりオリジナルは絵だけを見ればそれほど豪華絢爛でもなく、色も朱・黄・緑くらいで地味ともいえる。しかしその中に釈尊が飢えた虎の親子の前に自らの身を投げ出して喰わせ虎を救ったという故事に基づいた絵があるのだが、朱で表された血が妙にくっきりとスプラッタで、いいのかコレ‥‥とちょっとたじろいだ。
一方現代版のほうは蒔絵の中に螺鈿のように玉虫の羽を配している。グラデーションがかかった羽の一枚一枚を2mm四方に切り、ひとつひとつ色味ごとに仕分けしモザイクのように色合いを表現したそれは、より趣を増した出来あがりであった。やっぱり技術の進歩ってスゴイ。
このために集めた玉虫の羽は6,600枚だそうである。国内だけでは到底間に合わず、中国やインドネシアや台湾などから輸入したんだそうな。箱の中でシャラシャラと音をたてる大量の鞘翅が生々しい。しかし虫の羽というのは撥水の都合上けっこう油ギッシュなんだそうで、接着するためには油を抜かなくてはならないとか。灰汁で煮たりするのかと思ったら、お湯で煮ると言ってたな。灰汁はアルカリが強いからなんかマズイのかもしれん。
しかし屋根が彫刻ってのがまた面白い。特にしゃちほこの原型となった棟の両端についた鵄尾(しび)に見とれた。小さな鱗がずらりと並んだような彫刻ってスゴイ。
このようにムッハー、と鼻息を粗くして映像に釘付けになっていたわけだが、ただ全体的にヒューマンドラマと物作りドキュメンタリーのあいのこのような撮り方で、中途半端な気がした。個人的な趣味だけど贅沢を言えば私としてはトンビが飛んでる映像や軽ワゴンが走ってるとこはいらないから、もう少しモノをじっくり見せて欲しかったな。あと、ピントは手前でお願いします。

*1:顔料を桐油や荏油でといて文様を描く技法で油絵の一種。