読了:ボリバル侯爵(レオ・ペルッツ)

煙に巻かれるような変な話なんである。
スペインに侵攻したナポレオン軍に対し、ラ・ビスバル市ではゲリラ軍が頑張っていた。ラ・ビスバルはスペインとフランスのちょうど境目あたりの町である。1812年ということなので、ナポレオン戦争のうちのスペイン独立戦争の真っただ中である。ヨーロッパは長年の戦禍に荒れていたころだ。
たまたま怪我をして逃げそびれて仲間にも置きざりにされた兵士が、ゲリラ軍と謎の人物が打合せする現場を目撃する。この「たまたま」が後から効いてくる。何事もたまたまで偶然、適当で杜撰。だから運を掴めば日の目を見る希望もある。粗野で愉快な仲間たちが碌でもないことをしながら右往左往しつつ、何故か、たまたま、そのようになってしまう顛末が描かれる。にやにやしながら読んでいるうちに、狐につままれた気分になる。
なんで大尉の愛人を秘密裏にみんなで共有しているのかよく判らない。判らないんだけどそういうものだと言われれば納得してしまいそうになる。しかも回りくどく一応みんな内緒でそれぞれ口説いている。でもみんな知ってる。大尉以外は。
こうしたちょっとした秘密や細かい設定が波紋を呼び偶然も合わさって、物事が進んでいくのである。ボリバル侯爵が計画的にこうしたとはとても思えない。しかしそうなる。頭の上に疑問符がいくつも浮かんでいるうちに、見えざる手に導かれるように綺麗に収まるところに収まっていく。ちょっとぞっとする。読み終わってもまだ判らない。
なんだか変な本なんである。とても面白かった。