映画:ホルテンさんのはじめての冒険


たまたま眠いときに見てしまったのが、まったりゆっくり流れる時間に身を浸すような映画で、いい塩梅に心地よく眠りに落ちそうになった。ところでこのポスターでホルテンさんが抱えているのは、仔豚だとばかり思っていたら犬なのね。当日映画館に行くまで勘違いしてたよ。
列車の運転手をしている真面目がとりえのホルテンさんは、定年退職するその日、最後の乗務に遅刻してしまう。で、何を思ったかそのまま逃げてしまう。遅刻しちゃった、えへへ、という申し開きもせず、一直線に家に帰って電話にも出ない。なーんとなく自分にも覚えがあって気持ちは判るような気もするが、しかしつまりそれは小学生がそのまま大人になったような人物設定なんだな。いままで真面目一辺倒で人づきあいもまともにしてこなかったせいで、突発的なことに慣れていないためどうしたらいいのか判らなくて、とりあえず逃げちゃう。ボク、しらないよ、と。
山間に降り積もった雪の感じや、ガピガピに凍った坂道の感じ、滑らないように足の裏全体に体重をかけて歩くとか、北国生まれの私には懐かしい。私も凍った道でコケてスクーターと一緒にズザザーと何mか滑ったことあるわー。ここに車が来たら死ぬ、と思いつつ、氷の上だから止めようがないんだよね。
どうもホルテンさんは現実感の薄い人みたいで、何の気なしに非常識なことをして捕まったり、苦労の末にいよいよとなった段で気が変わったのか突然何も言わずに逃げ出したりする。そう、逃げ癖もあるようで、なにかあるとすぐその場から逃げ出してしまう。スキージャンプも怖くてずっとできなかった。レールの上を走る列車の運転手という仕事も、規則や決まり事が多そうだしなにやら象徴的だ。その仕事をいわば卒業するのが定年退職だったんだろう。
普通に考えたらただのんびりしたコミカルな映画なんだろうが、観ていて正直疲れてしまった。ヨットを売るって言ったときにも本気かと何度も訊かれてるのに、それには「Yes」と答えておいて、蓋を開けたら実は本気じゃありませんでした、とかさ。そりゃ本人は逃げちゃえばいいんだろうけどさー。
ただ、そんなホルテンさんも少しずつ変わってくる。レールから外れた生活を楽しむことにしたのか、本当は乗客は乗せちゃいけないことになっている運転席に、定年退職した自分と犬を乗せてもらったりする。規則的には決して良いことではないにしても、人の情というかよしみってあるもんだよね。そんで行った先は『どうせ口だけでしょ』と言われていたご婦人のもと。茶番を茶番たらしめているのは、実は自分なのだよな。