いっしょうゆるさないんだからね

いつもバカだアホだ間抜けだドジっ子だといわれるが、断じて認めないんである。やると決めたことはどうにかしてやり切るし、不測の事態にも即座に優先順位を考慮して現実的に対処する、いつでも冷静と誉れ高いしっかり者と自認しているのだ。三年に一度くらいしか『やる』と決めることはないし、難しそうなことは最初から尻込みするがな。
たとえ地下鉄の改札の前でパスモを探してゴソゴソとカバンを漁りつつ、あれ? どこに入れたっけ? あれ? とやっていたら、一緒にいた相方さんに私の着ていたパーカーのポケットからひょいとつまんで無言で差し出されたとしてもである。
毎日乗る地下鉄のホームでいつもどっちに乗るのか一瞬判らなくなるとしてもである。
朝早く起きすぎて映画を観る直前に眠たくなったとしてもである。
家事をしていて出掛ける時間までに終わらず、洗濯物を干すのを中途半端に諦めたとしてもである。
しょっちゅう鍵を置き忘れて自宅に入れなくなっているとしてもである。
デンワをちょくちょくどこかにやってしまい、あるときは終着駅まで取りに行き、またあるときは冷蔵庫の中から見つかったりしたとしてもである。
車を運転していてもう少しで反対車線に突っ込みそうになり、同乗者に『忘れられない思い出になった』と言われたとしてもである。

私は断じて、そう決して、三十路も超えて幾星霜だというのに天然ドジっ子などという恥も外聞も身も蓋もないものではない。天然なんてただの迷惑なバカの代名詞じゃないか。この私がそんなもののはずがない。根拠はなくても揺るがぬ確信を胸に、今日も台所の床に置いてあるダンボール箱からおもむろに瓶を一本取り出し、栓を抜いてラッパ飲みする。冷えてないビールは腹が膨れるんだぜ。これが私の生き様だ、よく見とけ。だが栓抜きは使うぜ。歯で開けたりはしない。そこは譲れない。物事には拘るのだ。だから一生赦さないと決めたことは何が何でも赦さない。憶えてろよ、バカめ。放っておくと私が忘れてしまうから、そっちに憶えててくれって言ってるわけじゃないからな。