スラムドッグ$ミリオネア(監督:ダニー・ボイル)

インドのスラム街で育った孤児のジャマール(イルファン・カーン)は、世界的な人気番組「クイズ$ミリオネア」で、あと一問で全問正解という状況にいた。だが、無学の少年が答えられるはずないと、司会者には疑われ、賞金の支払いを渋るTV番組会社の差し金で警察に連行され、尋問を受けることになる。一体なぜ、ジャマールは100ドル札に印刷された大統領の名前や、ピストルの発明者を知り得たのか…? 警察の尋問、クイズが続く番組、そして彼の子供時代の記憶を行き来しながら、貧富の差が混在するインドを生き抜いた少年の人生を描く。

イスラムとヒンズーの闘争で母親を亡くし、二人きりになった兄弟が逞しく生き延びる物語である。強烈なヒップホップにのって駆け抜ける疾走感に、極めつけの貧しさにも暗くならない逞しさがのる。
弟のジャマールが運命を手に出来たのは何故だろう。どうしても諦め切れなかったからか。そこまで育ちが過酷なものならば人としてもっと堕ちていても仕方がないところを、ギャングにもならずまともな仕事にありつけるまで粘りきった腰の強さだろうか。加えて好奇心旺盛で頭も良かった。そうした素地がものをいったのは間違いない。だけど、それだけだろうか。
兄は弟を守るため、汚れ役を引き受けているんだな。子どもの頃からちょっと意地悪で狡からい面も描かれるけども、それだって才能だろう。現実的にどうすべきか考え、その小さな手に余るものは切り捨てなければ生きていけないと達観しているように見える。いつの間にかコルト45を手に入れ、後腐れまで考えて始末をつけたのは兄だ。しかもただ悪者を殺せばそれで済むわけではなく、その落とし前をつけるために地元を仕切っているギャングに顔を通したのも兄のサリーム。もちろん自分の身を守るためでもあっただろうが、だったらどうしてがんじがらめにされる蜘蛛の巣へ弟は連れて行かなかったのだろう。浴槽に満たした札束は、生命あっての物種なんだよな。
宇宙の開発事業でも全員がスペースシャトルに乗れるわけではない。裏方がいて、支える人がいて、初めて選ばれた宇宙飛行士は空に行けるのだ。俺はここで見てるからお前は行け。お前なら出来る。意識してやったわけではなかったかもしれないし、ただ偶然が重なってそういう状況になっただけかもしれない。ただ何かに守られていた、その何かとは人の情や気運、そういうものだったのかもしれない。
発展途上の社会で弱者がとことん追い詰められ、気を抜くと喰いものにされてしまうさまは、知識としては知っていてもフィクションでも映像として見せられるとショッキングなものである。ちょっと前までは日本もそうだったとはいうものの、直接体験していないものにはどうしても実感が沸かない浅はかさ。実際にこんなニュースも出てくるのは、逞しいというかなんというか。

[ムンバイ 20日 ロイター] インドの警察当局は、映画「スラムドッグ$ミリオネア」に出演した女児を、父親が20万ポンド(約2800万円)で売ろうとしたと疑いで捜査をしている。

 同映画でヒロインの幼少時代を演じたルビーナ・アリちゃん(9)は、父親と義母とともにスラム街で生活しており、家族に高額の養子縁組を持ちかけた英タブロイド誌ニューズ・オブ・ザ・ワールドのおとり取材は、インドでも大々的に報じられた。この報道を知った母親が19日、警察に届け出たという。

 ルビーナちゃんの家族は、人身売買の意志があったことを否定している。
ロイター:再送:「スラムドッグ$ミリオネア」子役の人身売買、警察が捜査

この映画で人気が出たルビーナちゃんに仕事の話が次々と来ていただけで、売ろうとしていたわけではないと親は言っているらしい。何が本当なのかは藪の中である。また、子役の子たちへのギャラが不当に安いと抗議が起きたが、それには理由があって一括で支払うと周りの大人たちに搾取される恐れがあるためなんだとか。

ルビナちゃんもアザルディン君も同作品撮影後は、映画スタジオ側の計らいで生まれて初めて学校に入学できたばかりか、出演の報酬として成人するまでの生活費、学費、医療費等はすべてスタジオが持つという取り決めになっており、そればかりか18歳にきちんと学校を卒業できたら、『スラムドッグ・ミリオネア』の興行収入の分け前を配賦する。
『スラムドッグ$ミリオネア』子役のギャラ不払いを否定する公式声明発表 - シネマトゥデイ

いやはや、現在進行形で生き馬の目を抜く世知辛さなんだなぁ。本当の一攫千金は子役たちだったのかもしれない。