DVD:運命のボタン(監督:リチャード・ケリー)

見知らぬ人から預けられたボタンを押すと、現金100万ドルを貰えるが、どこかで知らない人がひとり死ぬ。さあ、あなたはボタンを押しますか押しませんか。
当たり前なのかもしれないが予告編ではさわりの部分しかやらないので、押すか押さないか人生を絡めながら迷いに迷うハートフルストーリーなのかと油断していたのだが、実際に見てみると割と早い段階でそこのところはあっさり決着がついてしまい、更にその先の話になっていくのが意外であった。その前にも思わせぶりで不気味な伏線が仕込んであって、どうなっちゃうの、と真剣に見入ってしまった。
だんだんX-ファイルのような話になってきて、それならそれでと見当違いを修正しつつ楽しんでいたのだが、結末までがテレビドラマのようだったので拍子抜けした。いや、このへんは好みの問題かもしれん。ただ淡々と続くというのも奇妙な余韻を残して良いという向きもあるだろうが、私はせっかく映画なんだからあと一歩欲しいような気もした。あと、途中のモチーフが良く判らなかったな。キリスト教的逸話の何かなんだろうか。
どうも後味が胡散臭くなってしまったのは、アタッシュケース入りの札びらで100万ドルという下世話なほど確固たる利益と、目の前にある何処にも繋がってないボタンを押すと誰かが死ぬなどと間接的というにも風が吹けば桶屋が儲かるより因果関係の薄い行為とを、同列に並べられているところが引っ掛かるからだろうな。
知らない人が知らないところで知らないうちに死んだとしたらって、なんだか自分で書いていてバカバカしくなってくるが、ところで世界の全人口に対して2010〜15年の死亡率は8.6%である。2010年における地球上の全人口が69億人なので単純計算で年間6億弱の人がお亡くなりになっているわけだ。アメリカ合衆国に限っても人口3億余人に死亡率が7.8%で、年間2千万人以上が亡くなっている。2秒にひとりの計算である。(数字は総務省 統計局 統計データ『第2章 人口』より)
死因は様々だろうが、ボタンを押そうが押すまいが世界のどこかでいつでも人は死んでいるのである。なんでそのうちの1件がボタンを押したせいだと判るのだ。もちろん数字を出したからといって関係ない理由にもならないが、どんな偶然が重なったとしても、その人を殺したのが心臓に撃ち込まれた一個の銃弾であるならば、別の場所にいた直接関係ない人間が妙なこじつけで罪悪感を抱きあまつさえ因果応報で不幸に見舞われるんだと思い込んだら、立派なビョーキである。こうなってくると「あなたがボタンを押したからひとりの人が死んだんですよ」と告げること自体が、洗脳するための一種の呪いだな。ていうか、その人たちを死ぬように仕向けてるのはお前じゃん‥‥。
映画の中のこれは何々を象徴していてと云々するにしても、この手の話はどうも牽強付会というのか、いや、映画だからそもそもホラ話なんだし楽しければ牽強付会でもいいんだが、なんというか世界が百人の村だったらのアレとか、不幸な境遇の人の存在を喧伝した上で、知って無視するのは苛める側に加担してるのと同じだぞ、さあ助けようとする私に賛同しなさい、とマイルールを押し付けて無理矢理二者択一を迫る、他人の不幸をネタに親切ごかした営業トークのようなイラッとくる匂いがした。
それこそこれは映画、つまりお話なので『そういう設定である』ことは判っているが、ちょっと題材がイヤらしくて気に入らなかったのだった。

舞台が1976年とのことで、ファッションやインテリアはレトロでよかったな。サイケな壁紙、赤いロングコートなどケバすぎず趣味が良くてかっこいい。