映画:アベックパンチ(監督:古澤健)


アベックパンチ』というのは架空のスポーツ『アベック』の必殺技である。『アベック』とは男女ペアで片手を繋いで闘う格闘技で、繋いだ手を離してしまうと試合終了。一見あまりに不自由なルールだけれども、これが恋愛・結婚のメタファーなのだと思えば話が早い。手を繋ぐことで不自由になる半身を相手を信じて預ける。そんな甘酸っぱい青春の吹き上がり。原作はマンガである。
世間の隅でクダを巻いていた不良少年達が、チャンピオンと出会うことで次のステージに上がろうとする成長物語でもある。新しいことに挑戦する、それも本気で。それはとても楽しいことだし、本気であればあるほど仲間との繋がりも強くなる。実に実に甘酸っぱい青春である。久しく忘れていた感覚だ。
前を向いて地道に頑張っていたら、いつの間にか過去は後ろに置いてきていた。最後にいつものチンピラに絡まれたとき、それが判るのだった。キモはチャンピオンとの因縁を果たすことではなくて、それはただの口実でありきっかけでしかなくなっていたことに気づく。自分が高みに登ること、それこそが目標なのだ。
格闘あり、恋愛あり、ヤクザあり、とぼけたギャグもあり、いろんなものが詰め込まれたキラキラした映画であった。


ところで過日、この映画のエキストラに混ぜていただいたのだが、作中で一瞬だけ確認することが出来た。ほんのちょっととはいえ銀幕で自分や知っている人の姿を見る日が来るとは、なんだか妙な気分である。試合のシーンに参加させていただいたのだが、エキストラではリングを見下ろす観客席に座って現場を眺めていた。それが出来上がってきた映像とは当然ながらまったく別物になっているのは新鮮な驚きだった。アングルや照明の当たり方などで随分雰囲気が違うんだなぁ、と小学生のような感想を持ったのだった。
メバル役の水崎綾女さんは生で見ると非常に可愛らしいと同時にどこかなまめかしい、目力のある感じの女優さんだったのだが、出来上がった映画を観ると作中では案外大人し目の役柄だったのに驚いてしまった。さすが役者さんやなぁ。武田梨奈さんは最初はヘナチョコパンチの格闘素人の設定だけれども、実際に試合の場面で撃つハイキックはさすがにキレが違う。そして梨奈さんが出てくると何が違うのか画面が締まる。身体をきちんと使っているひとは佇まいも発声もキリッとしているもんなんだなぁ。


アベックパンチ完全版 中巻 (ビームコミックス)

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