台風前


こっちに越してきて早5年。横浜観光名所はみなとみらいや中華街、馬車道、元町といろいろあるけども、みなとみらい方面から横浜駅東口方面を眺めるこの景色がとても港町横浜らしいなと思うのだった。横浜駅東口のベイクォーターはこの角度から見ると豪華客船のようだ。実際にそのイメージでデザインされているらしい。
ここらへんは橋の下の水が海なのか運河なのか川なのか判然としない。潮の香りはする。水面をよく見るとばしゃばしゃと魚が跳ねているが、なんの魚なのかは判らない。もう少し陸側の西幸橋の下には大きな鯉が群れているが、ここは地図で確認すると汽水域とも思えないくらい海に近いのでスズキかなんかなんだろうな。
もともと横浜は山がそのまま海に落ち込んだような地形なので、平らな部分はけっこう狭い。だからこそ大きな船が着きやすくて港に向いているんだろう。東海道五十三次神奈川を見ると判るけども、昔は横浜駅のある辺りは海だった。それが江戸時代から埋め立てが始まって今のようになったわけで、この海と陸が入り組んでせめぎあっているような風景が、如何にも横浜のイメージという感じがする。住んでみると山だらけだけどな。
あれからもう5年か。三度目の雇用保険は横浜で受取ったっけ。前の会社の社長は給料踏み倒して夜逃げした。保険関係の面倒を見てくれていた社労士さんに最後の書類上の処理など諸々を相談しに行ったら、「給料不払いは違法ですから」ときっぱり言ってくれて涙が出そうになったのも、良くはないがいまは思い出だ。結局は逃げられたが、気持ちが張り詰めていたから頼もしいその言葉が無性に嬉しかった。綱渡りの綱が切れたら餓死するしかないなと半ば本気で腹を括っていたのだ。あのころに比べたら、ずいぶん安定して幸せだと思う。不景気は庶民レベルでは絶望に直結する。大陸の向こう側の騒動も、なんとなく判らなくもない。