物欲

貧乏生活も長くなると、物欲が鈍磨してくる。
お金がないから買えないし、買えない物を見ても楽しくないし、楽しくないからお店に行かなくなる。すると刺激が全然なくなって、欲しいと思う対象を見失う。そうすると今度はふとお店に行っても何が欲しいのか判らず、買い物できなくなる。
まあいいや、いいやでなんとなく季節が過ぎる。こんなのっぺりした生活も、何事もなく過ぎれば平穏無事である。
しかしこのごろ、給料が首都圏仕様になったせいか、物欲が戻ってきている。本が買いたい、道具が欲しい、材料を見に行きたい。
地方と首都圏では二割ぐらい給料が違う。私だけかもしれないが。
物価も違うというけれど、実際に違うのは地価ぐらいで、実は物の値段はそう変わらないのだ。チェーン店はどの地域でもほぼ同じ値段をつけているのだし、ということは洋服も家電も本も値段は同じ。違うのは地域の特産品ぐらいだが、日用品や食料の値段だって給料ほど差はない。
そうするとどうなるか。同じ値段のモノの価値が変わってくるのである。ipodなんて、首都圏なら働き始めたばかりの若いもんだってちょっと奮発すれば買えるけど、地方では三ヶ月ぐらいお金をためて気張らなきゃ買えない。田舎ではそういう小物の前に自家用車を買わなきゃいけないしね。なるほど、地域格差っていうのは、こういうことか。
私もこちらに来て貨幣価値が落ちたので、「けっこう色々買えるじゃん」という気分になったのだろう。こうしてみると、物欲はなくなったのではなくて、押さえつけられていただけなんだな。