映画:TIME/タイム(監督:アンドリュー・ニコル)

科学技術の進歩によりすべての人類は25歳で肉体の加齢が止まるようになった。その代わりに時限式の体内時計が仕込まれており、25歳になると同時にそれが残された時間を刻みだす。余命時間が通貨となって流通しており、時間がなくなった瞬間に死んでしまう。だから貧民街ではときどきそのへんに死体が転がっている。時間が尽きるより前に不慮の事故などで死んだ場合は、お金なら残るけども時間は生命と一緒に消えてしまうようだ。
もともと貧富の差というのは生命活動にも影響しているものだけど、ストレートに余命時間に置き換えるといろいろ判りやすくなる部分と齟齬の両方が出てくるのが面白い。貨幣経済ならば富裕層が搾取するのは労働力であり、単純にいえば貧乏人には生きててもらって安く働いてくれたほうが効率的である。しかし搾取する対象が時間となると、数多く生まれて25歳を過ぎたらさっさと手持ちの時間を放出して死んでくれたほうが都合が良いということになる。
コレだけ聞くと面白そうな設定なのだけど、しかし観終わったあとに微妙に納得いかない気分が残った。
前半に社会の秘密を暴け・我々は搾取されてるんだワーワーというのが台詞で説明されて、んじゃあどうするのかというと途中から銀行強盗して貧民にバラ撒く義賊の話になっていってしまう。現実では既存のシステムをなかなか壊せないのと同じように、根本的な解決はできないってことなんかね。10万年あれば〜という話も出てきてたけども、あれで終わりだとどうなのか。
それと時間監視局員はルールを守るだけで正義には組しないというが、言ってることもやってることもどうも古くさい。グレーの角ばったコートといい、乗っている平べったい車といい、タイムキーパーの周りだけ80年代のような空気が漂っている。そしてルールを作ったのは誰なのかとなるのが自然な流れな気がするのだが、そこはノータッチなんだよなぁ。
見た目がみんな若いのも最初は面白いなーと見ていたのだが、富裕層のお父さんが出てきたあたりで財界のボスが若すぎると迫力がなくてなんだかなー、になってしまった。それに富裕層がどこまでも生きるんであれば、曾祖父くらいにしてもよかったんじゃなかろうか。娘の実年齢が27歳というのも安易な気がした。上流階級の娘にしてはメイクが蓮っ葉すぎて見えないし。お母さん役の人の若者の肉体に髪型や服装だけがミセスっぽいのは良かったと思うのよ。そういう多くが若くして死んでしまう貧民層と、鶴亀のように長く生きる上流階級のあり方の違いみたいなのが、もうちょっとあったら説得力が上がると思うんだけどな。