読了:『SOY! 大いなる豆の物語』(瀬川 深)

SOY! 大いなる豆の物語 (単行本)

SOY! 大いなる豆の物語 (単行本)

どこにでもいそうなゲームオタクのフリーターが主人公である。しかしこの『どこにでもいそうな』というのは、私自身がインターネットに親しんでいるための錯覚なんだろうな。中流家庭で育ちそこそこいい大学を出てIT系に就職はしたものの理不尽ないじめに遭って退職し、病気というほどではないけども精神のバランスを崩して社会復帰できずに実家の部屋に引きこもっている。まるでネットに集うステレオタイプを煮詰めて固めたような人物像である。わざとそういう人物を配しているのは明らかだ。理屈っぽく大人になりきれず行動力もなくて頭でっかちで片手落ちという、およそ現実にいたら私でも苛め抜きたくなるようなタイプなのだが、読んでいると意外と憎めなくて1周回って微笑ましい。この不器用で情けない男がたまさか起こした行動でもって自分を追い詰め崩壊し、そして再生していくのは無様で見事だ。大人になるのってこんなに大変だったっけ。
話は地球の裏側の遠いところから始まるのだが、それがぐぐっと迫って身近に繋がってくるところで、無関係だと切離していた世界が急に接続する感覚にくらりと眩暈がする。変調し、混乱し、酩酊し、調子に乗ったところを小気味よく叩き落される。さいこう。
500ページを超える大書だが、リズムのいい文章でするすると読める。特に岩手の方言が何度か出てくるのだが、そのリズムも非常に引っかかりなくスムーズなのが凄いなぁ。私は東北出身なので文字を追いながらイントネーションから強弱まで脳内再生しては、ネイティブで読める幸せに浸らせて貰ったよ。
ちなみに東北独立というのは現代まで連綿と続くよくある与太ではあるな。あんまりバカにすると食糧供給止めるよ? が脅し文句。(参考→『奥州連合』スコットランドほど激しくはないが、話すと長くなるし曖昧な事柄が多いので、与太くらいにしておくのがちょうどいい塩梅なのである。