読了:「双頭の鷲」(佐藤賢一)

双頭の鷲

双頭の鷲

双頭の鷲、というと星条旗を連想してしまうのだが、百年戦争の話である。賢王シャルル五世の時代に生きた軍神ベルトラン・デュ・ゲクランの一代記。
書いたのが東北大大学院でヨーロッパ史を専攻していた佐藤賢一だと思うと、私は詳しくないので判断できないものの時代考証も間違いないだろうし数々の逸話も史実が多く混じっているんだろうな、と先入観を持って読むのでそれだけでかなり興味深い読み物になる。
それでもベルトランの人物像はハチャメチャで、戦の天才なんだが人間として欠けたものが多すぎる。何かに特別に秀でた人はどこか欠けた部分があるということもあるんだろうが、それに加えて恵まれない子供時代を過ごしたアダルトチルドレンだったという解釈だ。それだけならよくある話かもしれないけど、「いひ、いひひ」と笑うとか、とにかく描写が細を穿っていて素敵なのだ。これは果たしてどこまでが想像でどこまで記録が残っているんだろう。
主人公だけでなく敵も味方も何人分も、生い立ちから始まってその人物の人生に落とされたであろう影や人格形成に影響を及ぼしたであろう事件などをつぶさに説明しつつ、深いところまで突っ込んだ人物像を描き出すのが圧巻だ。本は二段組で五センチ程の厚さ*1になるが、それ以上に情報量満載で飽きずに読めるどころか、最後にはちょっとほろりとくる。ひとつの時代が終わって最後まで生き残ると切ないよねぇ。
歴史モノが好きな人には堪らない一冊だが、好きな人はとっくに読んでいるんだろうな。
それにしても古今東西、武勇に優れた男は腕が長いものらしい。

*1:カバー不含。