読了:英仏百年戦争(佐藤賢一)

英仏百年戦争 (集英社新書)

英仏百年戦争 (集英社新書)

それは、英仏間の戦争でも、百年の戦争でもなかった。イングランド王、フランス王と、頭に載せる王冠の色や形は違えども、戦う二大勢力ともに「フランス人」だった。また、この時期の戦争は、むしろそれ以前の抗争の延長線上に位置づけられる。それがなぜ、後世「英仏百年戦争」と命名され、黒太子エドワードやジャンヌ・ダルクといった国民的英雄が創出されるにいたったのか。直木賞作家にして西洋歴史小説の第一人者の筆は、一三三七年から一四五三年にかけての錯綜する出来事をやさしく解きほぐし、より深いヨーロッパ理解へと読者をいざなってくれる。

サトケンが好きだ!
はい、というわけで、私は割りと歴史物とか大河物を読むのが好きである。しかし記憶野がイカれているので、丸暗記科目は苦手。博物学的に物を覚えるとか、細かい人物相関図を把握するのも不得手。説明されても右耳から左耳へ抜けていく。文系のくせに社会科はよく判んないんである。政治というのは確かに興味深い。人物と事件の絡み合いで関係性がごちゃごちゃと変わっていくところが醍醐味である。しかしその醍醐味そのものが苦手。ダメじゃん。
でも小説を読むと面白い。困ったものである。
物事には先入観を持たないほうがいい場合もあるが、時代小説や海外文化に触れるには、基本となる概念や習慣、その時代や地域の常識のあり方なんかを知っていたほうが、よりいっそう楽しめる。というか、むしろ基本的な知識がなければどんなものでも退屈なだけで面白くもなんともないだろう。例えば何故石鹸が汚れを落とすのか知っているだけで、ならばと頭で工夫を考えてそれを実行できる楽しさが味わえ、それが上手くいったりすれば掃除の効率は実際には上がらなくとも小さな達成感さえ得られる。それが面白がるというもんなんである。
話が逸れたが、本書はフランス化したデーン人によるブリテン島の征服から始まってジャンヌ・ダルクあたりまでの、いわゆる『英仏百年戦争』と呼ばれる一連の小競り合いについての解説書である。とはいえ、試験勉強用の参考図書では読む気がしない。本書は佐藤氏の顔が見えるような解説や突っ込みも挟まれ、読み物としても興味深いものとなっている。なによりこの人はこういうのが好きなんだなぁ、と思わせる熱意がそこにある。高校時代の日本史の先生みたいだ。四角四面の授業というより、面白いことを子どもたちに話して聞かせているようで楽しそうだったよなー、彼も。
この時代は英雄が群雄割拠した戦国時代みたいなもんである。そもそもブリテン島にもともといたケルト人がスコットランドアイルランドに追いやられたというのが、弥生時代から波状段階的に百済人に席巻された倭国というのによく似た構図である。大雑把にそんな感じなんである。多分。私のアタマではここまでで限界である。
そんなトリアタマの私が歴史物の小説を読むには

  1. 気合を入れる
  2. 事前にできるだけ流れを把握しておく
  3. よく判らないことがあったら確認できる参考書を手元に置いておく
  4. あとは情報の取りこぼしがあっても気にしない

という気構えが必要なんである。
好きな小説をより楽しむためのツール。佐藤氏の小説をより面白がるために、佐藤氏本人が書いてくれた参考書なんである。持たない訳にはいくまい。