読了:三銃士(アレクサンドル・デュマ)

三銃士〈上〉 (岩波文庫)

三銃士〈上〉 (岩波文庫)

三銃士〈下〉 (岩波文庫)

三銃士〈下〉 (岩波文庫)

舞台は17世紀初め、世情いまだ穏やかならぬルイ13世治下のフランスである。勇気と才覚を武器に出世の道を切りひらこうと、パリにやってきた青年ダルタニャンが到着早々出会ったのは、3人の近衛銃士―沈着冷静な武人アトス、人の好い豪傑ポルトス、そして詩人はだで聖職者志望のアラミスだった。友情に固く結ばれた4人の活躍が始まる。

王直属の銃士隊に所属する仲良し三人組+ダルタニャンの物語。イングランドとフランスの中世史で、そろそろ頭が飽和状態である。ダルタニャンというのは実在の人物にモデルがいるらしい。しかしまあ、これは小説である。
主人公たちはこんな感じ。

  • ダルタニャン: 主人公。ガスコーニュ地方の貧乏貴族の息子。跡継ぎじゃなかったので銃士になるべく、パリに出てくる。二十歳だが用心深く勇敢で頭が切れるけど鼻っ柱が強くキレやすいという、複雑な性格。
  • アトス: 本名はラ・フェール伯爵だが、素性を隠して銃士となっている。三十歳くらいで三銃士の中で最年長。高潔な人格者で、理知的。女に近づかない。
  • ポルトス: 仮名らしいが、素性は判らない。大柄な力持ちでお調子者の派手好きの伊達男。従者の名前がダサいからって改名させた。裁判所の代訴人の妻であるコクナール夫人の愛人。
  • アラミス: 仮名らしいが、素性は判らない。本当は僧籍に入りたかったのに、若気の至りでひとり殺してしまい、アトスとポルトスに勧められて銃士になった。優男でアンニュイ、恋人なんかいないしいらないと言っているが、実は王妃の友人シュヴルーズ(公爵)夫人の恋人だったりする。

このころの銃士というのがどのようなものだったのかいまひとつよく判っていないのだが、この面々の経歴を見るに前歴不問の武装集団だったんだろうか。制服を着てしまえば『銃士』という身分内でほぼ平等らしく、いろんな経歴の人物が対等につきあっているようである。
そんでやっていることはあいつは味方だとか敵だとか、なんかスケールの大きいヤクザの抗争のようだ。それにしても国同士で戦争しているときに、国境をまたいで敵方の大将に『あんたを暗殺する陰謀があるから気をつけてね』って使者を出したりしてるのは、それでいいのか? お前らの敵は一体誰なんだ? あと、今とは倫理観が違うのか、隠密の旅の途中で捕まりそうになったら土地の宿屋の食料品庫に篭城し、飲み放題食べ放題の無道無体の限りを尽くすってのはなんなんだ。どんなゴロツキだ。だいたい、敵方には知られたくない秘密の旅じゃなかったのか。そんな悶着起こしていいのか。謎である。
それと彼らの恋人というのは必ず人妻である。まともな成人女性は親が決めた結婚をしているものという時代だったのかもしれんが、しれっと旦那がいる女の自宅へ親戚のフリして食事に呼ばれて行ったりして、うーん、フランス人ってよく判んないわー。
国内では枢機卿と銃士隊長が権力闘争のしのぎを削っているようだし、海を挟んだ恋の行方と王と王妃の関係、王妃の出身国スペインとの関係等々、状況がひっじょーに複雑で、王の味方をするのか王妃の味方をするのかで立場が違うらしいし、将来はどっちに転べばどうなるのか、細かいことに拘っていられないほど先の見えない時代だったのかもしれない。にしても、惚れた女が王妃の侍女だったから頼まれて危険な橋を渡って国際不倫を隠蔽するという展開は、冷静に考えたら枢機卿憎けりゃ僧衣まで憎いみたいなもんなのか‥‥なかなかに一筋縄ではいかない話である。あと、たぶんこの調子でいくと罪人、特にそれが敵で女性の場合には人権もクソもないんだろうな。身内贔屓をフェアじゃないと感じるのは、現代的な感覚なのかもしれない。
勇気と機転で目の前にある問題をひとつひとつ片付けていく痛快さや、恋物語(でも不倫)のわくわく、小悪魔のような女を諸悪の根源として収斂させ退治ることで一応の決着をつける判りやすさの下を一枚めくると、当時の世相の複雑さが垣間見えるような物語であった。
これは三部作の第一部で、続編にこれの二十年後の話の『二十年後』と更に十年後の『ブラジュロンヌ子爵』という物語が控えている。