痴漢

昨日痴漢に遭った。
とりあえず、吃驚した。
自転車での帰り道、ちょっとした坂を登るときに、腰を浮かせて立ち漕ぎをしたら、同じく自転車で追い越しざまに尻を掴まれた。そりゃ驚く。
で、次に頭に浮かんだのが「何年ぶり?」だった。
若い頃、十代の後半から二十代の前半に掛けて、何故かよく痴漢に触られた。歩いていればすれ違いざまに不自然に手が伸びてきて胸を鷲掴みされ、本屋では鼻息の荒いオッサンが後ろに立ち、バイト先の上司に何度も触られてキレて「酒ぶっかけて火点けんぞ!」と啖呵を切ったこともある。ちなみにそれが原因で辞めた。
断っておくが、私は特にスタイルも良くなかったし、つい触りたくなるような美しさがあったわけではない。男性にモテる女性が美人とは限らないのと同じように、多分痴漢に遭いやすい被害者オーラか何かがあったんだろう。どっちにしても、今は昔だ。
それはともかく、相手は追い越していったから、顔を見たのだが、多分年下のオニーチャンだった。坂道を一生懸命シャカシャカ登って逃げていった。追いかける気も起こらなかった。
そのとき私は分厚いコートを着て、帽子を目深に被り、ライダースもののデカい風除けサングラスをかけて、マフラーまで巻いて、おまけにとっぷり日が暮れていたから、まさかこんな年増だとは後姿からは判らなかったに違いない。そんな私に触ってくれるなんて、とまでヘリクダルつもりはないが、せっかく触ったはいいけど、三十過ぎのオバハンでざーんねーんでしたぁー、へっへっへっ。
若い頃は痴漢被害に遭うたびに、烈火のごとく怒っていたものだが、今ではすっかり馴れている(かなり久しぶりだったが)せいか、トシとともにこなれてきているからなのか、オトコノヒトはこういう衝動を持っているから大変だなぁ、などと思う。
ホント、お坊さんが煩悩を捨てるのは、女性の私には想像できないほど、大変なことなんじゃかなかろうか。性欲、それに伴う攻撃性。根源的に取り除けるわけじゃないし、一生付き合っていかなくちゃならない、高血圧みたいなもんか?(いや、違うと思う)
帰って相方に「痴漢に遭った」と報告したら、「え、え〜?」と笑っていいのか労わればいいのか、明らかに迷っている。そして、「何されたんだ?」と訊いてくるものの、目が笑ってる。
ふはは、笑っていいよ。椿事だ。