読了:「告白」(町田康)

告白

告白

手に取ったときには、結構な厚さにちょっとたじろいだのですが、中身は軽妙な河内弁の語り口でするするっと読まされました。
明治の大事件「河内十人斬り」を、犯人の熊太郎を主役に据えて小説化したもの。この事件のことが、河内音頭のスタンダードナンバーになっているとはなぁ。本の中でも語られているけども、この世には「正義」というものはただの概念であって、「正義」を実現できるはずの金や地位を持っている特権階級の人たちが実際にやっていることは、身内贔屓や自らの利害・損得を基準にして、力を持たない人々を圧迫しているだけだ。理不尽に押しつぶされていた市井の人々にとって、村の横暴な有力者一家を皆殺しにした熊太郎の凶行は、喝采したくなるような出来事だったってことなのかもしれない。ただ官憲は怖いし、おおっぴらに誉めるべきことでもない。だからかたちを変えて、音頭になったのか。これが河内衆の心意気、なんだろうか。
問題の熊太郎は、百姓の倅には不似合いな思弁的な魂を持っていた。自分が考えていることを表現する言葉を持たず、ストレートに外の世界とつながることが出来ない。言葉で表現できないので、それは出口を求めて紆余曲折し、奇矯な行動となって現れる。どうも何を考えているのか他からは判り難い熊太郎は、村人からも一歩置かれてしまう。というあたりで、熊太郎に共感しすぎて具合悪くなりそうでした。げ、子供の頃の私、そのままじゃん。私の場合は二十歳過ぎればただの人だけど。ああそうかー、今まで自分に当て嵌めて考えなかったけど、こういうのを思弁的というのかー。ただの多動でオカシイ奴だと思ってたけど。くふふ、私って思弁的?
いや、それはどうでもいいんですが、すっかり共感してしまったせいで、文中そこかしこに出てくる「あかんやないか」が胸に刺さる刺さる。グサグサきすぎて鬱になりそうでした。
面白おかしく、ちょっと鬱。かなり好きです。