パニック発作

時々、神経が疲弊していると感じることがある。
外を歩いていると否応なしに目から耳からのべつ幕無し情報が入り込み、遮断するすべもなく匂いが嗅覚を刺激する。舌はインスタント食品の不味さを伝え、単純作業に末端神経がビリビリ悲鳴をあげる。


厭なことを聞いた。
身辺で諍いがある。
私には直接関係ない。
だけど理由を知っている。
うまくいかない原因も、しかしそれでは収まらない事情も。
どうにもならない。


ぐるりと一回転して、神経が捩れる。抑えが利かなくなった五感から膨大な情報が流れ込む。いつもならそこから重要なものと瑣末なものと取捨選別されるはず。だがバランスを崩して柔軟に収斂する力を失った網目は、隙間が大きく開いてしまっている。
神経が過敏に反応する。間断なく押し寄せる刺激に、細かいことを判断できず、次第にどんなことにでも、畏れと苛立ちが立ち上がる。
人はひとつのことにはかなり我慢できるけれど、我慢しているときに横から別の力で押されると、あっけなく折れる。ぴんと張った糸に刃物をあてがうと切れやすいのと一緒だ。


ああ、引きこもりたい。
もう厭だもう厭だもう厭だ。外の世界は辛い哀しい苦しい。
呼吸がコントロールできない。こめかみが額が冷たい。動悸が止まらない。指の神経が肘を抜け肩まで痺れる。吐きそうだ‥‥。
唾を飲み込み、とにかく刺激を遮断する。
目を閉じ、耳栓をし、布団に潜りこむ。
何も考えるな考えない考えない考えないことを考える。やり過ごせ、大丈夫、何ともない、大したことない。


そう、私は大丈夫。実際心配するほど大したことじゃないと知っている。
心弱い私が右往左往しても、ただ自分が疲れるだけだということも、知っている。