迷い

明日からまた上京する。今度は部屋決めのため。大体目星はつけてあるので、契約しに行くのだ。帰りは火曜日の夜。
あとは帰ってきてから引越し業者を呼んで見積もりをとり、日時を決めてしまえばサクサク事務的に処理できることばかりだ。
その中で迷っているのが、洗濯機の処遇だ。


実家を出た当時、働き始めて三年目ぐらいだったかな。その頃の仕事は契約社員の事務職で、とにかく給料が安かった。月給がやっと十万円を越すぐらいで、実家通いの腰掛けか主婦のパート以外、あり得ないような職業形態だ。
中身も多くを求められず、営業社員のオッサンに愛想を振りまいていればよくて、簡単な作業以外することもなくて暇なもんだから女性連中はエネルギーが余っていたせいか、くだらない派閥争いやらいじめやらもあったし、あることないこと根も葉も幹も枝もないような噂話や根掘り葉掘り親戚のことから恋愛生活まで聞き質される井戸端のような職場だった。好んでそこに入社したわけではないが、私が就職したのはバブルがはじけた次の年で、学生最後の一年で百社以上の面接試験を受けたが全滅し、卒業してから無理矢理コネで潜り込んだのだ。そんな不出来な女なのだから選択の余地はなかったのは確かだが、不本意だったと不平を言うのも失礼かもしれない。
幸いそこは残業がほぼなかったので、昼間の仕事のほかに夕方から夜にかけてコーヒーショップでアルバイトをし、やっと貯めたお金で念願の一人暮らしを始めたのだ。始めたら始めたで昼間の仕事だけでは家賃が払えなかったから、結局仕事は掛け持ちし続けたのだが。
そんなピーピーの状態で家財道具をそろえたので、大きな家電はリサイクルショップで一番安く売っていたものを買った。
うろ覚えだが買った当時で十年ものの洗濯機が四千円ぐらいで十五年ものの冷蔵庫が八千円ぐらいだった。炊飯器は新品で五千円、電子レンジは貰いもの。懐かしい青春の思い出だが、そのうち今までで買い換えたのは実に冷蔵庫だけだ。他はまだバリバリ現役で働いている。
そんな洗濯機なのだが買ってから十年が経過しているから、考えてみるともう二十年前の型なのだ。手入れなんか一つもしていないのに、昔の機械は長持ちだなぁ。
そしてこれを今回金をかけて長距離を輸送するぐらいなら、買い換えてはどうかと迷っているのだ。持っていくのと買い換えるのとでは、どっちが安いんだろう。というか、買ったほうが多少高くつくだろうが、どれくらい差があるのだろう。
一方で今でも金がないのは同じだし、不具合もなく動いているからこれでいいんじゃないかという気もする。でも昔の型なのであまりデリケートな動きができないらしく、なんだかこれで洗うと衣類が早く傷むような気もしないでもない。
ううん、迷う‥‥。