胸焼け

公衆の面前で堂々と犯罪をおかす神経を考えたら、そいつは病気じゃなければ別の倫理で動いているとしか思えない。親しんだ“普通”が通じない、洒落にならない奴が、次に何をするかなんて予想できるか。暴力をふるわれたとしてもせいぜい二、三発殴られる程度、とは楽観できないだろう。刃物を持っているかもしれないし、止めたら比喩じゃなく撲殺されるかもしれない。何をするか判らない。
そうでなくとも、倫理の箍が外れた獣じみた人間は、わけなくひとを恐怖に陥れる。そういう意味では理解を超えた才能も然りだろう。人間の姿をした、しかしそうでないもの、というのは根源的な変異への恐怖だ。仲間であったものがそうでなくなるということは、自分ももしかしたら一線を超えてしまうかもしれない可能性を意味する。安寧を脅かす甘い誘惑。死体が恐ろしいのは、そこに世界からはみ出した姿を見てしまうから。
恐ろしい。拠り所がぐらつく。だからひとは異質なものに弱い。
異なものは祁だ。