読了:愛はさだめ、さだめは死(ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア)

自然と本能のまえにとまどう異星生物のライフサイクルを、斬新なスタイルで描き、1973年度ネビュラ賞に輝く表題作ほか、コンピュータによって他人の肉体とつながれた女の悲劇を通して、熾烈な未来社会をかいま見せ、1974年度ヒューゴー賞を獲得したサイバーパンクSFの先駆的作品「接続された女」、ユカタン半島に不時着した飛行機の乗客が体験した意外な事件を軸に、男女の性の落差を鋭くえぐった問題作「男たちの知らない女」など、つねにアメリカSF界の話題を独占し、注目をあつめつづけたティプトリーが、現代SFの頂点をきわめた華麗なる傑作中短篇全12篇を結集!

以下ネタバレあり。

  • すべての種類のイエス

地球に着いたばかりのエイリアンと四人の地球人との交流。
いくらクスリのやり過ぎで頭が茹ったヒッピーでも、これはないだろー、イージーすぎるだろー、とイマイチ乗り切れなかった。

  • 楽園の乳

事故で子どもの頃に異星に取り残された少年は、数年後に救出されるまでその星の住人に育てられた。しかし同胞になかなか馴染めず孤立していたとき、同僚にそそのかされて故郷の星へ戻ってみる。
うぅむ、審美眼というのは後付けなのだろうな。

  • そして私は失われた道をたどり、この場所を見いだした

コンプレックスに悩まされるエヴァンは、コネで科学調査団の一員となり星々をめぐる特権を得る。ある惑星で『別れの山』と名付けられた山に惹きつけられるが、調査団は帰途に着くことになり、破れかぶれにエヴァンは最後の賭けに出る。
死に行く山といえば月山*1。というわけで、舞台が山形に思えて仕方なかった。ミイラにされなくてよかったね、ではなくて、ピューマの死体は上を目指していたんだろうか、というのはヘミングウェイ*2だっけ、とかいろんなことが頭によぎる話だった。

  • エイン博士の最後の飛行

謎の女性と不思議な経路でモスクワの会議に向うエイン博士。そこで暴露される真実。
スパイ小説のような緊張感があって面白かった。作者のCIA時代の面目躍如だろうか。しかし謎の女が一緒に行動していると仄めかされる理由がよく判らなかった。ちゃんと読めてないんかな。

ダニエルとルーの関係は、愛ではない理由。
えーと、一読しただけですが、私にはまだオチが理解できてません。妹がなに?

  • 乙女に映しておぼろげに

モトルビーの前に、ふいに未来からタイムトラベルした少女が現れた。
突然オフィスに現れた未来少女と、何故か普通に会話してるのが可笑しい。

死にかけた不器量で貧しい不幸な少女が生命と引き換えにその身を買われ、完璧に美しいアンドロイド少女デルフィに接続される。広告を出せない世界で、大衆を魅了しあこがれの対象となることで新製品を売りこむことになるが、世界を牛耳る企業の御曹司と恋に落ちる。
『“感覚”なるもの、実はオタクの両耳のあいだに詰まった電子化学的ゼリーの中で、チカチカまたたくポテンシャル・パターンにすぎない。』
うーん、説明不要。このへんからだんだん読むほうものってきた。最後のほうでP・バーグがサウナのドアを開けるところが切ないね。

  • 恐竜の鼻は夜ひらく

助成金を引き出すために調査チームがドタバタするコメディ。
そっちか! という方向に話が転がっていくのが、確かに酔っ払いの思い出話だ。

  • 男たちの知らない女

沼地に不時着した飛行機。美しい母娘は男では思いも及ばないような行動に出る。
私たちはひとりふたりとばらばらにいるのです、という言葉が印象深い。地味にぶっ飛んだことができるのが女、というのも判らなくもないが、作者が女じゃなければ共感できないところだった。そう考えると作家の性別って私は少し気にしているんだな。人生、やるかやらないかだぜ。

  • 断層

エビのような容姿をしたショダール人の星で傷害事件を犯したミッチはなんらかの罰を受けたはずだが、一見したところ、なんの変わりもなかった。
時間がズレていくという四次元の刑罰。鼠の時間、象の時間というはなしもあったけど、それとはちょっと軸が違うのだな。時間って何だろうねぇ。

  • 愛はさだめ、さだめは死

モッティガードは黒。母は金で赤は愛。寒くなると自分がなくなり、さだめだけになってしまう。
蜘蛛や昆虫のある生態を思い出せばすぐにオチは想像できてしまうが、詩のように美しい一編。おれの愛しいチビ赤。はちきれんばかりに光り輝く。

  • 最後の午後に

あるコロニーに三十年目にして襲い掛かる脅威。それを前にして個人の意識と種としての帰属意識がせめぎあう。
進化の方向性でよく言われるのが、次は肉体を捨てるんじゃないかという話だけど、そこに至るまでの葛藤というのが、痒いところに手が届くようで気持ちがいい。


なんだかんだあって結局どこにも辿り着かない話が多いが、それで良いのだろうな。辿り着いちゃったらそこで終わりだから。
これは読後すぐには感想が書きにくいな。自分の中で少し時間をかけて醗酵させないと消化不良になりそうだ。
読めばガッチリ心を掴まれるのだが、ナニカを飛び越えてそこに至る境地というか、ひとことでは説明が出来ない。このへんは中島敦坂口安吾あたりのちょっと古い文学を読む感触と似ている。わざわざ紐解いて開陳するのが勿体無くて、このままそっとしておきたいような。

*1:中島敦

*2:てか、BANANA FISHか。