同性愛者であることを公表した上で、米国史上初めて公職に就いた政治家ハービー・ミルクの半生を描いた伝記ドラマ。1970年代のサンフランシスコ。生来の人柄でゲイやヒッピーたちに慕われる同性愛者のミルクは、マイノリティに対する権利と機会の平等を求め、世間の差別や偏見と戦いながら市制執行委員会の選挙に立候補する。第81回アカデミー賞では、主演男優賞(ショーン・ペン)、オリジナル脚本賞を受賞。監督は「エレファント」のガス・バン・サント。
映画の中でハーヴィーが言った台詞が印象に残った。
『いままで四人と交渉をもった。そのうちの三人が自殺未遂。どういうことかわかる?』
ハーヴィーは交渉相手のことを言っているようで、実は紛れもなく自分自身について言及しているのだな。
彼は死ぬのをやめて闘った。死ぬ覚悟はとうにできていて、生命を捧げたともいえるのかもしれない。カミングアウトしたら、もしかしたら親や家族には見捨てられるかもしれないし、仕事は頸になるかもしれない。いや、実際になったのだ。公表してしまったらもう後がない。優しい表情を浮かべている彼は既に死を乗り越えていたんだろう。だから脅迫がきても揺るがなかったし、差別の矢ぶすまの中に身を曝すことができたのだ。そしていざとなったら暴動を起こそうとまで心に決めていた。
そんなヒリヒリするような綱渡りを続けて、最後に撃たれたときにはまさかという思いと、やはりという気持ちが渾然一体となって混乱した。不謹慎だが、こうなるべくしてなったとでもいうような。坂本竜馬の最後の感じと似てるかもしれない。変革者というのは古今東西を問わず、こうしたものなのだろうか。
ところでエンドロールで登場人物たちのモデルになった本人の写真が出ていたのだが、スコットは本物もハンサムだなぁ。
ゲイは全人口の5〜10%らしい。マイノリティではあるが、社会制度を考える上でもう無視できない数字といわれる3%は軽く超えている。周りの人間で10人から20人にひとりはゲイという数字だ。30人の学級ならその中に2〜3人はいるということだ。15人のオフィスにも、ひとりはいてもおかしくない。もっとも、あまり温かい目で見られていない彼らは身を守るために集まるのだろうし、その分布は一定ではなさそうなので偏りは出てくるのだろうが。
私自身は異性愛者でそういう点では深く悩むこともなく安穏と暮らしてきたけれど、ではいまになって彼らのために何ができるのかといえは、我々はただ知ればいいのだと思う。同性愛というのは、実はそんなにいうほど珍しくない。彼らも同じように恋をして仕事をして税金を納めて暮らしているだけ。
ハーヴィーは言う。
『カミングアウトするんだ。自分の存在を表すんだ』
ゲイというものが見知らぬ敵だと思って排斥していたのに、実はそれが善良な隣人だと知ったら、その人はどう感じるだろうか。よく考えたらそれはおかしいことではないし、攻撃される謂れもないことだということに気づくのではないだろうか。少なくとも、私が女性で日本人で東洋人なのと同じくらいには。
ハーヴィーやその協力者たちが生命がけで闘った事実が示すように、それは死活問題なのであろうし決して簡単な話ではないではないのだろう。だけど、いつかそんな単純な話になればいいと思うことは無駄ではないと信じたい。
「異性愛者へ12の質問」
1.あなたの異性愛の原因はなんだと思いますか?
-
- 知りません。
2.自分が異性愛なのだと初めて判断したのはいつですか?
-
- 確か22〜3歳くらいのときだったかなぁ。
どのようにですか?
-
- たまにだが私は何故か同性に異常に好かれるというか懐かれることがあって、その中で仲良くなった人と、ふとセクシャルな関係になれるかという場面で、どうしても無理だった。あのー、見るだけならいいけど、おっぱいとか気持ち悪いです。女体というのは造形的には美しいかもしれないけど、それで性的に舐りたいとか触りたいとかぐちゃぐちゃしたいとは、まったく思わない。そういう意味では私は完全にヘテロ。
- 恋愛については性差は関係ないと若い頃は思っていた。好きになった人というのが私の場合は異性ばかりだったけれども、慕わしく思える相手であれば同性でもかまわないんじゃないかと。まあ、自分に関しては頭でっかちで甘かったね。
3.異性愛は、あなたの発達の一段階ではないですか?
-
- さて、それは死ぬまで生きてみてからじゃなきゃ判んないんじゃない。
4.異性愛なのは、同性を恐れているからではないですか?
-
- 恐れているというよりは、性的に交渉しろといわれると気持ち悪いのが先にたつかな。
- 怖いといえば、それぞれ別の意味で男にも女にも畏怖は感じる。人として当たり前だと思うが。
5.一度も同性とセックスをしたことがないなら、なぜ、異性とのセックスの方がよいと決められるのですか?あなたは単に、よい同性愛の経験がないだけなのではないですか?
-
- 確かに経験は無いね。やってしまえばどうってことないのかもと思う瞬間もある。
6.誰かに異性愛者であることを告白したことがありますか?
-
- ある。ここでもヘテロだと表明してる。
その時の相手の反応はどうでしたか?
-
- 記憶に残るような反応をもらったことは無いんじゃないかな。
- あのー、件の同性とは自然消滅だったので、特に反応はもらってない。異性でも友達止まりでバランスを保つことがあるけど、そういう感じで。
7.異性愛は、他人にかかわらない限り、不愉快なものではありません。それなのに、なぜ多くの異性愛者は、他人をも異性愛に引き込もうと誘惑しようとするのでしょうか?
8.子供に対する性的犯罪者の多くが異性愛者です。あなたは自分の子供を異性愛者(特に教師)と接触させることを安全だと思いますか?
9.異性愛者はなぜあんなにあからさまで、いつでも彼らの性的志向を見せびらかすのでしょうか?なぜ彼らは普通に生活することができず、公衆の面前でキスしたり、結婚指輪をはめるなどして、異性愛者であることを見せびらかすのでしょうか?
10.男と女というのは肉体的にも精神的にも明らかに異なっているのに、あなたはそのような相手と本当に満足いく関係が結べますか?
-
- 同性だけでズルズルべったりのほうが、私は飽きる。もちろんそうじゃない人もいるだろう。
11.異性愛の婚姻は、完全な社会のサポートが受けられるにもかかわらず、今日では、一年間に結婚する夫婦の半分がやがて離婚するといわれています。なぜ異性愛の関係というのは、こんなにうまくいかないのでしょうか。
-
- 同性愛ならうまくいくのか? 同じじゃないの。
12.このように、異性愛が直面している問題を考えるにつき、あなたは自分の子供に異性愛になってほしいと思いますか?セラピーで彼らを変えるべきだとは思いませんか?
-
- 子どもがいないので判らないのが正直なところ。子どもを持つというのは想像の範囲をはるかに超えたものらしいので、コメントは差し控えたい。しかし例えば兄弟姉妹がと考えたとき、どっちでもいいから幸せになれと思う。他人と違うことをするというのは、それだけで細かいプレッシャーが多いのは確かだ。現状では同性愛者はいろいろ気持ちの面でも大変だろうなとは思う。ただ自分の周りでは異性愛者でも結婚してない人は多いし、子どもを持たない人はもっと多い。個人の幸せなんて一概には言えないさ。
同性愛者でいると、こうした類の質問をしょっちゅう受けるとかで、自分が訊かれたらどう思うか考えてみろというのが趣旨らしいが、敢えてマジレスしてみた。まあ、ウザいわな。他人の趣味なんてどうでもいいじゃんかってハナシだ。