茶カテキン

昨日のことである。
このごろ腹回りの脂肪が気になり始めたので、仕事帰りはちょっとした運動と片道の電車賃をみみっちく節約するのを兼ねて、2駅ほど歩くことにしている。もっとも、私の座右の銘は『気張らず無理せずゆるやかに』なので、ちょっとでも調子が悪かったり雨が降っていたり残業が長引いたりなど、よんどころない事情があればすみやかに電車に乗ることにしているので心配御無用である。(何がだ)
さて2駅手前で電車を降り、駅を出てみるとやけに冷える。歩いて帰るとなると3〜40分はかかる寸法だが、地道にてくてく歩くにはなんとも気の滅入る陽気だったのである。しかしはやばやと改札を出てしまったので仕方なくぶらりと歩き出した。いくらも行かぬうちに、明るい光が暖かそうなコンビニから放射しているのにふらふらと吸い寄せられた。暦と予想を裏切る寒波に少々脅かされた膀胱が、緊急避難信号を送ってきたせいでもあった。用を済ませ、そのまま寒い屋外に出あぐねた私は、ぼんやりと飲み物の棚を眺めた。暖かいものでも買おうかと思ったのである。
急ぐ道ゆきでもないので、なんとなく品揃えを確認するように流し見ていると、濃い緑色の丈の短いペットボトルが目に飛び込んできた。トクホのマークがついているアレである。ゴシックの文字で『脂肪を消費しやすくする』とラベルにうたっている、あの渋い飲み物である。
ふむ。と私は考えた。
脂肪を消費しやすくするということは、脂肪が中性脂肪となって血液中へ流れる作用をたすけるのであろうか。さらには中性脂肪が燃焼されるのを幇助するということだろうか。ならば此れを飲んで歩けば、からだが温まるのではなかろうか。
物は試しと、よく冷えたそいつをひとつ手に取り、会計を済ませて店を出た。やはり外は寒い。こんな冷たい液体を胃の腑へ流し込んで大丈夫だろうか。
ええい、ままよ。私は自棄糞でキャップを捻って一気にペットボトルの中身を口へあけた。冷たさに眉間がキーンとする。カテキンの渋みが口蓋にへばりついた。
ぶはあと息をついて、やおら自宅に向かって歩き出す。初めのうちこそちゃぷちゃぷんと音をたてそうな具合だったが、口の中の渋さがほんのりと甘く変わっていくに遵って、腹の中身も落ち着いてきた。道程の3分の1ほど往ったあたりで、胃の裏側辺りに名状し難い違和を覚えた。気持ち悪いわけではない。しかしなにか妙な心地である。立ち止まるほどではない。様子を窺っているうちにそれも程なくおさまり、私は元気よく腕を振って歩き続けた。

カテキンが、肝臓や筋肉中の脂肪消費酵素の活性を増強させ、脂肪をエネルギーとして消費しやすくする、胆汁酸の排出を促進すること等に起因するものと言われている。
ウィキペディア――【カテキン】

自宅に着いた頃には寒さの中でうっすらと汗ばむほどからだが温まっていた。もっとも、3〜40分も早足で歩き続ければ、カテキンを摂っていなくともぽかぽかになる道理だが。

はっきりとした因果関係は明らかにされていないが、カナダ、フランス、スペインなどでは緑茶カテキン摂取が原因と疑われる肝臓障害が報告されている。
ウィキペディア――【カテキン】