映画:パンドラム(監督:クリスチャン・アルヴァート)

薄暗い宇宙船の中に、なにかいる。パンドラム症を知っているか。初めは手が震えたり身体が痒くなる程度。意味ありげな腕の刺青。私たちが荷物よ。生き残ることは罪なのか――こんな思わせぶりな予告編にワクテカして観に行ったんである。
長い冷凍催眠の影響で、一時的な記憶喪失状態で目覚める。常夜灯ていどの明るさしかなく、あたりの様子がよく判らない。サイリウムを灯して動き回ってみると、宇宙船内部のコンパートメントのようだ。そしてもうひとり目覚める。他の乗員の姿は見えず、動力が働いてないのか管制室へ通じるはずの扉が開かず個室から出られない。最初からワケが判らず、不穏な空気である。登場人物が観客同様、なにも判らない状態からスタートするのは効果的だな。主人公と一緒に船内を調べ、何がどうなっているのか物事を追っていく過程に入り込める。
まず大きな密室である宇宙船の中に、敵がいる。おそろしく運動能力が高く、人間を捕食する。やつらは何処から来たのか。
そして何故か船内は薄暗く、せっかくのハイテク装置も気紛れな過電流が流れる瞬間にしか操作できない。
そうこうするうちに徐々に記憶が蘇る。主人公はクルーの中でも技術班の人間で、敵が何かは知らんが、現状から推し量ってとにかく原子炉を再起動しないと遠からず船ごと吹っ飛ぶことだけは判る。よし、まず原子炉だ。それぞれができることをやるというのは、軍隊や組織における考え方の基本である。おれは直しに行くぞ。で、原子炉はどこ?
これが話の骨子である。
限られた閉鎖空間の中で追い詰められ、疑心暗鬼の腹の探りあいで誰を信用していいのか判らない。突然襲ってくる怪物。冷凍催眠の影響で神経系が混乱しているため、この目で見たものすら真実かどうか判らない。迫りくる影。巨大宇宙船というハイテクの塊が廃墟化しているのも目を楽しませてくれる。
ところで私はこのハラハラドキドキ驚かし追い詰め怪物がギャー! というホラーがあまり得意ではなく、観ていて緊張しすぎて苦しくなって半ベソかくので、実はエイリアンもプレデターも観ていない。ターミネーターくらいなら大丈夫。読むのは割と平気なんだがな。さておき、それでもこの映画はSFホラーとして小道具もストーリーも凝ってたし、とても面白かった。私の周りだけかもしれないが、あまり話題になってないのが勿体無い。