英国王のスピーチ (監督:トム・フーパー)


ナチスの影が忍び寄る1930年代半ばの英国である。この時期のイギリス王はアイルランド、インド、カナダ、オーストラリアなど海外の植民地を加えると世界の1/4を支配していたと言われている。というか、いまでも英連邦王国は健在で、16の国家が属しておりその多くが立憲君主制を採用し英国王を元首としていただいている。もっともこれは形式的なものでそれぞれが独立した国家として機能しているんだが、名目上はカナダもオーストラリアも現君主はエリザベス2世なんである。なかでもソロモン王ってなんだかカッコイイなぁ。大いなる『君臨すれども統治せず』である。
しかしそんな近寄りがたい大帝国の王もひとりの普通の人間なのだ。ジョージ6世として即位する前、アルバート王子は重度の吃音症に悩まされていた。もともと左利きでX脚だったのを、王家に生まれたためにいまなら虐待と言われてしまいそうな厳しさで矯正されるなど、幼少時から過度のストレスにさらされたのが原因だったらしい。人の上に立つ必要がある以上、これでは本人が一番困る。そこで言語障害の専門家であるライオネルのマンツーマンのレッスンを受け、演説の苦手意識を克服しようと試みる。これらの実話をもとに作られた映画である。
ジョージ6世の妃エリザベスは、おおらかで優雅な女性で国民に人気があったらしい。映画の中でもヘレナ・ボナム=カーターの温かく愛情溢れる様子は、地位ゆえに孤独な王の傍にあって救いになっていたように見えた。しかし兄のエドワード8世が離婚歴のある女性と結婚するために王位をなげうったというのも凄い話だよなぁ。当時は『王位をかけた恋』と一大センセーションを巻き起こしたという。それも戦争直前のキナ臭さが流れるなかでの騒動である。こんなことがあったんだなぁ。
ふたつ名に「善良王」と呼ばれるジョージ6世は実直誠実な性格で、ブレることなく民衆の側につき、ヒトラーを批難し退けつづけたという。そんな英国王の人柄のように、しっかりと地に足のついた味わい深い映画であった。