アレクサンドリア(監督:アレハンドロ・アメナーバル)


アレクサンドリア図書館といえば書痴の夢。大灯台といえばSFと不思議の星。古代ローマといえば歴史好きには見果てぬ憧れである。コレを観ずに済ませるわけがない。
4世紀末、古代ローマ帝国の地中海対岸に位置した半ば伝説の地、アレクサンドリアである。世界中の知が集まる高度な学術都市であり、当時の科学力は既に地動説を窺うところまできていたという。しかし宗教闘争により高度な知識は蹴散らされ、再び天才・ガリレオが現れ再発見するまで実に千年もの停滞を経ねばばならなかった。
スペインの製作だが、この映画ではキリスト教はまるっきりの悪役として描かれる。黒っぽい薄汚れた衣装の修道士達が暴徒となって図書館になだれ込み、書物や器具・美術品などを破壊し燃やすさまなど、上空からのショットを早回しにして昆虫が蠢いているように撮影している。レコンキスタで異端審問のスペインでこうした映画が作られたというのも、趣き深い。
宗教の是非というのは一概に論じられないところではあるが、このときのキリスト教は教義の従順が盲従となり、信じることが自らの思考を放棄させるように作用したのだろうか。デマゴーグや扇動によって激昂した群集は復讐に復讐を重ね、自らの知性を放棄する方向へ突っ走る。いや、宗教のせいではなく、そのときによって様々な口実を見つけて噴出する、拭い難い人のサガなのかもしれない。ヒュパティアは自分で考えること、知ることに生涯を捧げていた。そんな彼女ならば『考えるな信じろ』といわんばかりの宗教を受けれるくらいなら死を選ぶだろうし、頑として押し付けを拒んだ結果、その通りになってしまう。
折りしも大震災が起き、原発の事故があり、陰謀論や極端な感情論などが囁かれ、張り詰めたざわざわした空気を肌で感じているときだったので、映画の中の不穏な雰囲気がビリビリと実感できた。震災の前に見ていたら、もっと違った観方をしていたのだろうな。
美術が素晴らしく、ローマ時代の町並みに迫力があった。いまはない大灯台も、CGで再現されていたよ。