スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団(監督:エドガー・ライト)


監督がエドガー・ライトってだけでも観ておかねばなるまい。しかし前評判は賛否両論の微妙なもの。原作を読んでいる熊も「微妙・・・・」と言っていたりしていたので、一抹の不安をおぼえながら観に行ったのだった。
しかし蓋を開けてみたらそんな心配はまったく無用であった。エドガー・ライト健在。ゲーム要素に必然性がないという話も聞いていたのだけど、逆にそれ無しでは成り立たない面白さだった。小ネタ大ネタ仕込みまくりで映画館でゲラゲラ笑ったよ。
ゲームっぽい処理を取り入れている映画だから主人公のスコット君はいわゆるオタク少年なのかというと、これも逆である。働きもせずプロを目指してバンドをやっている、どちらかというとチャラい若者なのだ。若いのに女ったらしでもある。これはつまりゲームをする側ではなくて、ゲームの登場人物なのだな。もっともゲーセンにしろテレビゲームにしろ、既に若者文化に浸透しており誰でも多少は遊ぶのできっぱり分けて考えることはできないのかもしれない。ただ自分の身の回りを衒いなくすんなりゲームの世界に置き換えて見ることが出来る、その程度にはリア充だとはいえる。
あと面白かったのが、ワケの判らない事態の原因について、超常現象やら運命やら遺伝子やら善と悪の闘いやらのやたら亡羊としたスケールの大きさで誤魔化すのではなくて、ひとりの人間に集約させていくところである。フィクションでは見えない敵と闘う話が多いけども、このへんが妙にリアリストなイギリス人ぽくて私のツボに入る。組織のせいとか死んだはずのお父さんがとか、そんな言い訳はどうでもいいのよ。怖いのは生きてる人間。なんだって責任の所在が判らない陰謀じゃなくて、元を糺せばみみっちい個人なんだっつーの。
スコット君は初めのうちこそ誰の忠告もまともに聞かないし、他人の気持ちを慮りもしない自己中心的なチャラ男なのだが、最後にはそのへんも解決に向かっているようで、後味がよかったよ。