読了:僕の魔剣が、うるさい件について(宮澤伊織)

僕の魔剣が、うるさい件について (角川スニーカー文庫)

僕の魔剣が、うるさい件について (角川スニーカー文庫)

表紙にはしましまパンツが見えているが、どっこい中身はガチバトルあり死人も出る伝奇ファンタジーの趣であった。
魔剣といわれて思い出すのがメルニボネの人ならぬ皇子が持つ逸品である。かの意思を持つ剣は喋らなかったけども、ときに手の中で震えたり歓喜の啜り泣きの声を上げたり、なんとも官能的な妖しさが魅力であった。それをライトノベルに変換し、女の子に喋らせるとなるほどこういうことになるのかとすんなり腑に落ちた。読んでいて、海に投げ捨てられた剣がひとりでに宙に浮き皇子の下へ帰ってくるくだりの、震えるような切なさと逃れられない破滅的な運命への絶望が入り混じった、なんとも複雑な叙情を思い出したのだった。
剣の銘が往年のSF作品からとられていたり、それとともに見え隠れする作者の愛着についニヤリとするニクい演出もある。もちろん知らなくとも面白く読めるし、私自身がライトノベルに夢中だった頃はまさに何も知らずに読み散らかしていたので気づかなかったのだが、こういう楽しみ方もあるのだな。蒙を啓かれる思いであった。
萌え要素は少なめ、わりと硬派な設定のしっかりした質のいい少年マンガのような感触で、これは楽しい。膨らみを持たせた展開に今後の期待も否が応でも高まってくる。実はライトノベルは若い頃に腐るほど読んだので近ごろはあまり手を出していなかったのだが、知人が書いたというので久しぶりに購入させていただいたのだった。ここでまたこのあたりに嵌ってしまうと諸々が非常に拙いのだが、しかし楽しいものは楽しいのよな。
出版おめでとうございます。既に重版もかかっているそうで、2巻も心待ちにしております。(陥落)