映画:ディクテーター 身元不明でニューヨーク(監督:ラリー・チャールズ)


サシャ・バロン・コーエン扮するアラブの独裁者がニューヨークで右往左往する話である。絵に描いたような独裁者なのでしょっちゅう暗殺されかかるため常に影武者をたてているのだが、側近に裏切られ影武者が本物ということになってしまうのである。
映画館に行く前に「キツイ」「キタナイ」「キケン」の我が職場のような3K映画だから覚悟しろと言い含められていたのだが、観てみたら見事な風刺映画なのでこんなものであろう。
いろいろ勘違いもあるようなので一応説明しとくと、純粋なゴアは確かに趣味ではないし、脅かし系のホラーも得意ではないし、生々しい下ネタも好きではないが、それはただ単に私にとっては『ピクリともこない』からであって、別にイイトシこいておさげメガネで制服の襟元のリボンをぴっちり締めてる委員長みたいに「そんなのイケナイわ! フケツよ!」などとお堅いことを言っているわけではない。諧謔を含んだエログロならばどんと来いなのである。マルキ・ド・サドの『悪徳の栄え』も飽きて下巻の途中でとうとう放り出したことがあるが、露悪趣味や倒錯であるというだけでは同じことを延々繰り返されても楽しめないのだから仕方ない。つまり私にはそういうフェチはないというだけの話で、なにを面白いと思うかの違いなのだ。そして性格が悪いので諧謔であれば大好物なのである。
独裁者と民主主義、命令と離反、信用と裏切り。どこを切っても徹底的に風刺で出来ていて、サシャ・バロン・コーエンは初めて観たけどかなりインテリなんだな。そうそう、孤独な独裁者が窮地に陥って他人と手を組むことを覚えるという心温まるお話でもあるんだよな。笑っちゃうけど。