映画:『誰よりも狙われた男』(監督:アントン・コービン)


フィリップ・シーモア・ホフマンの遺作となった映画である。ジョン・ル・カレの原作は読んでいない。
わりと可愛い系のおっさんであるホフマンだが、映画の中ではいつでも酒と煙草を手元から離さず、余計なことを言わず、修羅場を越えてきた男の凄みを感じさせる孤高のスパイ以外の何者でもなかった。名優なんだなぁ。
監督が写真家なせいか、画面がとても良い。舞台となるドイツで、情報機関のある建物は今となっては古き良き雰囲気を醸し出しているモダンなバウハウス系の建築物、CIAの女スパイとオフレコで打合せをするのは高層階にある最先端ぽいミニマルなバー、人々が生活するのは伝統的なアパルトマンと、それぞれのイメージに合わせてある。明度も場面によってはっきりとした意図をもって作ってある。あと、ホフマン演じるバッハマンの車は薄汚れたメルセデス。これである。きっとコーヒーはゴールドブレンドだ。
最初から最後までみっちり緊張が続くので観終わった後には疲労感が待っている。しかしこれでいいのだ。哀愁漂うラストとともに、実に正しいスパイ映画である。