DVD:ゴーストワールド(監督:テリー・ツワイゴフ)

ゴーストワールド [DVD]

ゴーストワールド [DVD]

高校を卒業したばかりのイーニド(ソーラ・バーチ)とレベッカスカーレット・ヨハンソン)は親友同士。特にやりたいこともなく、だらだらと毎日を過ごしている。ある日、二人は恋人募集の記事で目をつけた男(スティーヴ・ブシェミ)に待ちぼうけを食らわす。面白がって見ているだけだったが、イーニドはその男が気になって接近。レコードおたくの変わり者の彼に惹かれていく。

サブカル少女が厨二病でゴタゴタする話である。親友はしっかりした美少女で、一緒にいると男に声を掛けられるのは友達のほうばかり。絵を描くのが好きだけど、評価されるほどの美術的な才能はないらしい。ルサンチマンをこじらせて趣味に走り、エキセントリックな言動で承認欲求を満たそうとする。典型的なイタい甘ちゃんである。暗い青春時代の黒歴史というやつで、観ていて無性にムカつくのは在りし日の自分の姿を見てしまうからだろうな。胸がシクシク痛む。
映画の最後のほうで入院中のシーモアにイーニドが面会にいくくだりがある。イーニドが最初は行き過ぎた悪ふざけでシーモアを笑いものにしていたということが本人にバレて、いい雰囲気だったのがひっくり返っている場面である。ここでイーニドは「私にとってはアンタがヒーローだよ」とシーモアに笑顔を見せる。
この笑顔がいろんな意味で痛々しいのだ。
シーモアの側からすれば、イーニドが最初から陰で自分をコケにしていたのが判ってしまったわけである。悪気はなかったとしても、むしろこういうことは悪気があるよりはないほうがタチが悪くて、ナチュラルに他人を貶めて喜ぶような底意地の悪さを感じる。人間性を疑うというやつである。それでなくとも彼女が会社の古いポスターを勝手に公の場に出してくれたお陰で、自分が勤め先で叱責を受ける羽目になった。これは私的にちょっと厭な思いをすれば済むということではなく、もう一歩踏み込んで社会的な信用を傷つけたということである。その後の展開を見ると、もしかしたらクビにされたのかもしれない。それからイーニドに引っ掻き回されて、お付き合いがうまくいっていた女性とも別れた。だからといってイーニドは彼と付き合うかというと、そんなつもりはなくてただ邪魔をしたかっただけらしい。都合が悪くなると連絡を取ろうとしても逃げ回る。なまじ好意を持っていただけに、よりいっそう残念である。
そんな始末の悪いお子様に口先で「アンタがヒーローだよ」なんて言われて嬉しいか。耳ざわりの良いことを言って次から次へと裏切って、いままたここでキミに評価されたらこっちは尻尾振って喜ばなきゃならんのか。なんでもいいからもう関わらないでくれと思うんじゃなかろうか。
逆にイーニドの側からしたら、どうだろう。最初は確かに悪ふざけをした。でもその後は違う。知り合ううちに気が合うのも判ってきたし、尊敬もできる。シーモアに彼女ができて、なんていうかいままでそのままで楽しかったのにトンビに油揚げをさらわれた感じで面白くない。それはシーモアを気に入っているから。ポスターの件でもくだらない周りを出し抜きたかっただけで、考えが足りなかったのは確かだけどシーモアに迷惑をかけるつもりはなかった。でも迷惑はかけてしまった。いろんなことがバレて、もう嫌われても仕方ない。でもそれでも、自分がシーモアのことがけっこう好きで尊敬していることだけは伝えたい。
ここでのイーニドの「好き」は、若さゆえの恋愛未満なんである。男にとっては生殺し。これが恋だったら、もしかしたら結末は違っていただろう。
決定的にすれ違い、それを象徴するのが始終仏頂面のイーニドが見せる最初で最後のあの眩しいような笑顔なんである。これが泣き顔や怒った顔ではなく、笑顔だというのが、自分をうまく表現できない不器用さの表れのようで、胸に刺さるのだ。
にっちもさっちもいかなくなって、イーニドは最後はバスに乗ってゴーストの街から真の世界へ旅立ってしまったってことなんかな。キリスト教的な意味で。