映画:ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破(監督:庵野秀明(総監督)、摩砂雪、鶴巻和哉)

いわずと知れたエヴァである。
まず最初に、今回はすんげー面白かった。あと、ストーリーには全然関係ないんだけど、ミサトんちにある一升瓶が全部『獺祭』だった。ふぐと一緒に飲んだお酒ですごく美味しくて印象に残ってた銘柄なんだが、如水というのかそれほど日本酒通というわけではない人が好みそうな、実にミサトの人物像にあったセレクトだ。しかしアニメで獺祭を見る日がくるとは思わんかった。
TV版はリアルタイムではまったく観ていなかった。当時友人がはまって「面白い面白い」と言っていたのは知っていたが、仙台では深夜枠での放送だったし、正直その頃の私は仕事を掛け持ちしながら現実と必死に闘っていたので、甘ったれた14歳の少年の寝言に付き合う暇はなかったのだ。のちに余裕が出来てからDVDで全部観たが、そのときの感想も『なんだかなぁ』だった。
何故か。お話として完成度が低かったからである。
思わせぶりにチラ見せされる大風呂敷、痛々しいほど唐突で強引な事象、しかも作るほうが話のスケールについていけず、畳みきれず収束もせず放り出されたオチ。エラそうに言わせていただくが、もうね、アホかと。思春期の逡巡やら非常時に置かれた多感な少年少女の群像は構わんが、これはプロの仕事ではなかろうよ。なによりオトナがのっぺりしていて、まるでコドモが想像だけで描いた底の浅い同人作品を見せられているようだった。
しかしそれでもというか、それだからこそなのか、これだけ人気が出たんである。作りようによっては素晴らしいものになる素材なのだろうに、なんと勿体無い。それが私の印象である。
だが『エヴァだからなぁ』と万感の思いを込めつつ観に行ってみて、今回はとても楽しかった。最初の発表から年月が経ち、話のスケールの見直し、キャラクターの役割分担の配置、必要なエピソードの入れ替えなど話の骨格が練り直されてきちんと形になっている。なんちゅーか、観客に伝える方法論とか、アニメを観るのにそこまで否応なしに透けて見えてしまうのも逆に面白い体験ではある。
14年前、あれは世に出すには早すぎたんだろう。満を持しての今回こそがあのストーリーの完成形なんじゃないか。しかし引っ張ったなぁ。やっぱり最初から完成してたら、ここまで強烈に人々の印象に残ることはなく、たぶんあっさり『傑作の一本』てことで終わっちゃってたのかもしれないなー。
でも、こんな面白いものを見せてくれたなら、いままでの消化不良もすべてチャラにしてお釣りがくる。次回作にも期待。