映画:サブウェイ123 激突(監督 : トニー・スコット)

ニューヨーク、午後2時。4人組の男が地下鉄をジャック、乗客を人質に立てこもった。犯人は無線で地下鉄運行指令室に連絡し、59分以内に市長に 1,000万ドル用意させろと要求。連絡役には最初に無線で話をした地下鉄職員のガーバーを指名してきた。人質救出班のカモネッティ警部がそれを代わろうとすると、犯人は乗客を射殺。犯人との交渉役に就くガーバーだが、彼はある容疑で左遷されたばかりで……。

昨今多いありえない派手なCGアクションもキライではないのだけど、私はやはりこれくらいの普通のアクションのほうが落ち着く。出てくるのは誰もが特殊な能力者ではなくて、そこらへんにいそうな普通の人物だ。
主人公ガーバーは賄賂の嫌疑をかけられ役職から降格させられたサラリーマンである。取って代わった新しい課長は、しれっと彼に『もう辞めるんだろ?』と声をかけたりするいやらしさ。面倒くさいことは部下に押し付けておいて、華のある場面に来ると『業務命令だ』といって今までの担当を降ろして自分が前に出ようとする。ああ、いるいるこーゆーヤツ。丁寧に描かれたいわゆる大人の事情にニヤリとする。
犯人も職業的テロリストなどではなく、あくまで利己的で小利口な金狙いの小悪党である。言っていることは自信満々で偉そうだが、『こうなった責任は○○だ』が口癖なのが、こすっからい犯罪に逃げる人物をうまく表現している。対して地味な地下鉄職員である主人公が口にするのは『オレの自業自得だ』で、いろいろありつつも誠実であろうとする姿勢を端的に伝えてくる。
現金輸送を請け負う特攻野郎Aチームみたいな連中が身体を張ってぶっ飛ばすところでは、『なんでヘリを使わないんだ?』と作中で突込みが入っていたけど、監督はあのカーチェイスがやりたかったんだろうなぁと微笑ましくなりつつ、しかし突発的な事件に混乱した現場では意外と本当にこういう齟齬ってあるかもしれないとふと思ってしまったのは、映画全体を通して完璧ではない人間臭さが前面に出ていたからか。
画面は早回しやスローモーションを組み合わせていて動きが忙しい。スタイリッシュともいう。合わせて緊張を孕んだ言葉の応酬がギリギリと映画のテンションを上げていく。そんな中で危険な役回りをする羽目になった主人公に、妻が『帰りに牛乳を買ってきて』と頼むのがとてもいい。帰って来なさいよ、アンタ! という愛に溢れた頼みごとである。『小さいのでいいかい』『大きいパックよ』『やっぱり小さいのにするよ』なんて会話の末、ガーバーはちゃんと大きな牛乳パックを持って帰宅するんである。彼はスーパーヒーローなんかではなく、愛する家族がいて役職がどうとかで悩む平凡で善良な市井の人なのだ。とんでもない目に遭って何度か涙目になるシーンがあったが、そうした人柄がよく出ていてデンゼル・ワシントンはいい役者だなー。しみじみ。
この映画は1975年に公開された『サブウェイ・パニック』のリメイクらしいが、私はオリジナルは観ていないし原作も読んでいない。そのせいか判らないが、とても面白かった。