映画:ヤギと男と男と壁と(監督:グラント・ヘスロヴ)

最近よくコバエや小さい虫にたかられる。こないだは仕事中にふと気付いたら、極小のクモがモニタと私の頭の間に糸を張っていた。なんだか鳥や小動物も近づいてもなかなか逃げなくなった。ごみ集積所でカラスがぼけーっとしている傍を通りかかったら、かなり近づいてからふとこっちを見て「おわッ! 人間?!」と驚いたような感じでとびすさった。いつの間にか野生動物にも気付かれないほど気配を殺す技を身につけたのかといえばそんなハズもなく、共存共栄ラブ・アンド・ピース、ワールド・イズ・ビューティフル! 愛をもって接すれば小動物とも仲良くできるワケでももちろんなくて、ただ単に生命力が落ちているせいでナメられてるだけのような気がする。だけどそれでもまあいいか。いままで目に入らなかった小動物の世界が目前に繰り広げられて、ちょっと楽しい。そんな新しいナニカに開眼した私だが、『ヤギと男と男と壁と』を観てきたのである。
ときは冷戦真っ只中、ベトナム戦争真っ最中のガチンコで戦争していた米軍で、マジで超能力の研究がなされ、一部作戦にも運用されていたという話である。その名も『ジェダイ計画』。嘘のような本当の話‥‥らしい。もともとはソ連が『合衆国は超能力を研究しているらしい』と誤解し、ならば我もと張り合って研究し始めたという情報を米軍がキャッチしてならば我もと以下略。そんな『ほとんどノンフィクション』なのだそうである。
そしてそもそもしかし超能力ってどうしたら身につくの? と考えてとりあえずスピリチュアルなものを求めたらしい。啓示を受けた陸軍小隊長ビル・ジャンゴ(ジェフ・ブリッジス)は軍を離れ何年かヒッピー修行に明け暮れ、ついに『新地球軍マニュアル』を引っさげて戻ってきた。
新しい力は愛である。愛に満ちれば暴力にも勝てるかもしれない。自然の力に身をゆだねれば、遠くのものも見えるし必要な情報を誰から聞き出したらいいのかも風が教えてくれる。フォースの力を正しく使えば、キラキラ眼力で雲も消せるし見つめた相手の生命活動をとめることもできるの! この超極秘部隊に集められたリン・キャシディ(ジョージ・クルーニー)やラリー・フーバー(ケヴィン・スペイシー)らは裸で風呂に入りダンスで自分を解放するなどの修行を重ね、ついにキラキラ眼力を会得‥‥したのか?
ところで『新地球軍』とは気宇壮大である。合衆国陸軍特殊部隊新地球軍。意味が判らない。
そんな感じの話を、イラク戦争に従軍した記者ボブ・ウィルトン(ユアン・マクレガー)が既に退役しているリン・キャシディに聞かされるという二重構造になっている。そのふたりが過去の顛末を紐解きながら、様々な危機を乗り越えて辿り着いた先に待っていたのは‥‥ヤギである。
というのはともかく、よく考えると戦争という重たい犠牲がつきものの行為が、ごく一部にせよそんな根拠薄弱な情報によって左右されていたのかと思うとうそ寒いものがある。だがどれだけ大義名分を掲げ正義を標榜していようと思いつくのも実行するのも人間である以上、実態はそんなものなのかもしれない。そして事実が根拠となり繰り返されることで権威を得ていく。誰かがそんなことはもうやめようと言っても、システムには声は届かない。更に年月が流れ、軍も様変わりして戦争も情報戦も民間企業が肩代わりする明るいビジネスになっている現在、やっと「ないものはなかったこと」にできるようになったのだろうか。
しかし、ユアン・マクレガーってトレインスポッティングの人か! あとジェフ・ブリッジスの耄碌ジジィぶりがステキだったわ。