映画:シチリア!シチリア!(監督:ジュゼッペ・トルナトーレ)


光り輝くイタリアはシチリア地方のバーリアという町でペッピーノは育った。家は貧乏で子供のころから羊飼いの手伝いなどをして家計を助けていた。1930年代、ファシスト党が台頭しきな臭い時代の空気が流れ始める。考えてみればイタリアは第2次世界大戦でドイツ・日本と組んだ三国同盟の国なんだよな。監督の父の人生を下敷きに激動の20世紀を背景にした年代記のような構成になっている。
立派な青年になったペッピーノは政治の世界にのめりこみ、また黒髪の美女と熱烈な恋をする。これがまたイタリアらしい情熱でもってアプローチをするのだが、相手の女性もまた大変に気が強いところがイタリア女らしくて笑ってしまった。キラキラと輝く陽光のもと、食い詰めてペッピーノが出稼ぎに出ているときも妻は強く子ども達を守り抜く。短いエピソードを並べ、特に説明もなくどんどん時代を追っていく。
夏の暑い日に、石の床に水を撒いて寝そべり涼をとっているシーンがよかったな。マルガレット・マデは美女らしい美女であった。チャイナ風のワンピースにリバティプリントのシャツワンピを重ね着したのが風に煽られているのも格好よかった。
年代記といいつつ、ただ現実にあったことだけを追うのではなく、ところどころ不思議なことも織り込まれている。初っ端から走っていた子どもが空を飛びはじめたので『ああ、飛んじゃったよ‥‥』と意味もなく心の中で呟いたりした。決して幸せなばかりではない人生で、平和なばかりではない時代だけども、その場その時代に応じて人々は賑やかに生きている。ピカピカ光る小さな宝石を連ねたネックレスのような映画だった。2時間半あったらしいが、観ていて退屈する暇などなかったよ。
時代が進み砂埃のたつ道は舗装道路に変わるけども、ヨーロッパの町並みというのは日本のスクラップ&ビルドによる風景の変遷に馴れていると、怖ろしいほど変わらないのだな。石造りの家は手入れをされながら、少しづつ模様替えしつつも骨格は変わらない。そこに住む人もまた、走り回っていた子どもが大きくなり恋をして情熱を燃やし子育てをして年老いて死ぬ。中身は順繰りに入れ替わっていくけども、いつもそこには子どもがいて親がいて高潔な人間がいて愚か者がいる。太陽が輝く夏が来て木枯らしが吹く冬が繰り返される。なべて世はこともなし。