映画:アンノウン(監督:ジャウム・コレット=セラ)


リーアム・ニーソンって、『96時間』のお父さんのひとか。あれはなんというか複雑な気分になると言う意味で怖い名演だったな。そして監督が『エスター』のひと。日常的で小さく厭なエピソードを積み重ねていくのが実にイヤらしい傑作だった。そんな組み合わせのスリラー・サスペンスである。
交通事故による昏睡から覚めてみると、妻は自分を知らないと言うし、自分の名を名乗る見知らぬ男がいる。パスポートの写真も職場のホームページに載っている写真もその男になっている。自分はここにいるのに、どういうことなのか。
どこからどう書いてもネタバレになってしまいそうで困るのだが、前半で証明しようとする手をひとつひとつ潰され、じりじりと手詰まりになっていくのが、後半になって静かな綻びを発端に大きく動きだすのにゾクゾクする。
舞台が冬のベルリンとのことで、寒々しい色調も美しい。ドイツ人俳優のブルーノ・ガンツの存在感がすごかったなぁ。貫禄というのか画面に出てくるだけで話が進む気がするし、実際にそんなキーマン役なのだがその佇まいだけで説得力がある。寒空の下でコートにマフラーを首からさげた姿と冬枯れの街路樹の絵面が渋い。
始終仏頂面のリーアム・ニーソン頑固一徹顔が、ジャニュアリー・ジョーンズと顔を見合わせてふとほころぶシーンがあって、あれが良かったな。考えてみれば回想シーンでもわりと笑っているのだが、それとは別に窮地の笑顔というのはいいものだ。
頑固な親父は怖い気がする反面、それだけしっかりしていて頼もしいともいえる。この映画は主役から脇役まで頑固親父の乱れ打ち競演となっていて、チャラい若造が出てこない。(出てきてたとしても憶えてない)そこらへんも私にとってはなかなかいい映画であった。