読了:『古代ローマ人の24時間---よみがえる帝都ローマの民衆生活』アルベルト・アンジェラ

古代ローマ人の24時間---よみがえる帝都ローマの民衆生活

古代ローマ人の24時間---よみがえる帝都ローマの民衆生活

明けきらぬ朝もやに包まれた未明の街角に佇んでいるところから始まる。紀元115年のある1日の始まりである。現代の人間がふいにタイムスリップして2世紀のローマに放り出されたような臨場感だ。著者はイタリアの科学ジャーナリストでドキュメンタリー番組を制作していたらしい。それだけにつかみはバッチリである。
古代ローマの街を散策しながらあちこち見て回り、1日を過ごすような形式になっている。視点はひとりの男性が主体となっているようでもあり、それでいて周りに見咎められない透明な霊体のようでもある。どこにでもするりと入り込み人々のプライベートを覗き込む。まさにテレビカメラである。街角を歩いている人物についていって様子を観察したり、当時の集合住宅に登ってみたり、神殿を覗き込んだり、そうしてつぶさに様子を見聞きしながら、ドキュメンタリー番組のナレーターよろしく当時の社会のあり方や現代と違うところなどを解説してくれる。
古代ローマにまつわるイメージや伝説は本当だったのか、実際はどういうことだったのか。たとえば饗宴ではおなかいっぱいになったら孔雀の羽を喉に突っ込んで食べたものを吐き出し、胃を空っぽにしてからまた食べ続けたというのは本当なのか。奔放な性生活のイメージはどうなのか。コロッセウムでの剣闘士の試合はどういう見世物だったのか。解放奴隷というのはどんな立場だったのか。堅苦しい専門書ほど眠たくなく、しかし少々下世話でもある興味本位の好奇心を満たしつつも、当時の政治経済からしっかりと説明してくれるのはとても塩梅がよくて面白かった。
話題は食事、服装、住宅、買い物、学校、裁判所、浴場など幅広く、この1冊によくこれだけの情報を詰め込めたものだ。それでいて過不足なく按分されているので、すんなりローマの1日を堪能できる。


※ 原書ではラテン語の発音に関する章もあったようだが、訳出ではまるまる省かれているので、ご注意されたし。