ちょっと帰省してきた

去年のゴールデンウィーク以来である。
石巻に住む友人のところに遊びに行こうと目論んでいたのだが、調べてみたらJR仙石線は未だ高城町陸前小野駅間が開通していない。ちょうど海沿いを走っていた区間だな。石巻はその先である。バスによる振替輸送はあるのだけど、本数が少ないので途中の松島まで迎えに来てもらったのだった。

湾内にたくさんある島に守られた松島は他の地区よりは被害が少なかったという。とはいえ、おそらく看板の赤い線が津波の高さを表したものなんだろう。浜の松林も見覚えのあるお店が並んだ町並みも、残るところは残っている。他で丸裸になった浜を見ているので、素直によかったなぁ、と心の底からほっとする。見覚えのある風景が全部なくなったわけじゃないんだ。観光船もマリンピア松島水族館も元気に稼動しているし、オットセイの叫び声も外まで聞こえる。
車で迎えに来てもらったので、石巻に戻って頼んでそのへんを一回りしてもらった。石巻では海の近くにガレキが詰まれている。かなり遠くからでもその山はよく見える。え、あれ全部がガレキ? と我が目を疑うようなスケールである。それでもだんだん低くなってきてるよ、と友人は言う。被害の酷かったあたりは、未だ街路が区切ってあるだけの一面の草はらである。廃屋がぽつんぽつんと残っている。海の塩を被っても生えてくる草は強いな。
いわば地元ガイドつきだったわけだけど、このへんはこうであのへんはああなってと説明を聞いていると、なにも言葉が出てこなくなる。聞きたくないわけではなく、それでどうしようというのがまったく判らなくなってしまうのだ。彼らにとってはこれが日常であり、実際にどうにか処理せねばならないものなのだ。半端な同情や机上の空論など無意味であろうと思うと、適当なおためごかしなど言えない。ちょっと写真撮るから車停めて、というひとことも言えなかった。運転しているのは友人だから言えば停めてくれただろうけど、私にはどう撮ったらいいのか判らなかったし、カメラに収めきれるものとも思えなかった。茫洋たる面積と物量を前にぼんやりしてしまう。


昔、犬を連れてよく歩いたあたりに散歩に出てみた。やたらとひなたぼっこ中のカナヘビが目に付く。十歩ごとにカサコソ音がして、そこら中にいるようだった。こんなにいたっけ。大量発生してるんだろうか。

腹の赤い大きな蟻も目に付いた。こんなのいたっけ。それとも前は小さなものが見えていなかっただけかな。

ひとっこひとりいない薮の中で記憶を辿っているうちに、歩き慣れたはずのけものみちが見覚えのないルートを辿り始めた気がしてきて、怖くなって急いで車道へ戻った。