映画:イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密(監督:モルテン・ティルドゥム)


なんとかいろいろ乗り越えた。そんな春である。途中で白目をむきながら現場に急行したり、1日ぶっ倒れて寝ていたり、短期間のうちに山あり谷ありだったが、いまは体調も戻り報告書とISO書類をやっつけ仕事で作るだけの小康状態である。来月からまた修羅場が始まるので、しばしの休息。おかしい、私はCADオペだったはずなのに、すっかり現場の人である。
そんな中でも意外と週に1日は休んでいたので『イミテーション・ゲーム』を観に行っていた。カンバーバッチの主演で、実在した天才数学者の話である。アラン・チューリングナチスの暗号翻訳機エニグマに挑み、現在のコンピューターの原型を作った偉業で知られる人物で、私などはSF畑のほうから機械が知的かどうかを判定する『チューリング・テスト』という言葉で知ったクチである。機械が知能を持つというのはどういうことか。なんだか哲学的かつ魅力的な命題である。それはさておき、映画のほうは、これが怪演であった。カンバーバッチは芸達者な演技派なんだろうが、シャーロックのこともあるし、なんだか癖のある天才のイメージで定着してしまいそうだ。私の中で。
アラン・チューリングは多くの人とはちょっと違い、周りから理解されずモンスターなどと言われてしまう人物である。昔なら天才型、今ならアスペルガーと呼ばれるタイプだ。その彼が機械に思考能力を与え、より人間に近づけた存在を創ろうとするのがなんだか切ない。パブリックスクール時代、第2次世界大戦中の事、すべてが済んでひとりになったアランという3つの時間軸を行き交い、アラン・チューリングという人物を掘り下げていく。人間とは何か。知性とは何か。大戦中のイギリスで危うい戦局の均衡を崩さぬよう、非人間的な選択を迫られる。それでもアランの胸の内は豊かな情に溢れていたし、彼なりに優しく彼なりに一番良いと思えることをした。そして当時としては違法であった彼の特徴から、意に沿わぬホルモン治療を受けねばならなかったこと。ホルモンというのは人間を形作るのに精神的な面でも肉体的な面でも非常に重要な要素である。ここで人が人であるというのはどういうことなのか、その問いを重ねているようだ。
作った機械に名前を付けているのが切なくてね。いい映画だった。